サーバの仮想化は、ここ10年あまりで大きな進歩を遂げ広く普及したが、ストレージやネットワークの仮想化は、まだあまり広く使われていない。
ソフトウェアベースのストレージ仮想化サービスを手掛ける米データコア・ソフトウェアの最高執行責任者(COO)、スティーブ・ホーク氏に、ストレージ仮想化市場の現状と今後の展望について聞いた。
COO スティーブ・ホーク氏
仮想化技術の普及の中で遅れ気味のストレージ仮想化
本題に入る前に、まず仮想化技術全般のおさらいをしておこう。仮想化技術は、個々のシステムを個別のハードウェアで稼働させるのでなく、リソースを集約することでIT投資の有効活用を図るもので、もともとメインフレームで最初に実用化された。その後はオープン系OSで、まずクライアント用に技術者を中心として普及し、続いてサーバの統合・集約に用いられるようになり、近年ではクラウド環境の基礎中の基礎としても不可欠の技術となっている。
一方、サーバ本体に比べると、ストレージやネットワークについては、現状まだあまり仮想化が普及していないのが実情だ。ストレージ仮想化技術を用いた製品は10年ほど前から徐々に登場しつつあるが、サーバ仮想化ほどには普及していない。また、ネットワークではここ2~3年でようやくSoftware Defined Network(SDN)と呼ばれる枠組が固まり、標準化が進んで各ベンダーが実製品に反映させつつある段階にある。
ストレージ仮想化技術はもう少し複雑で、ストレージ装置やSAN(Storage Area Network)スイッチによるハードウェアベースの仮想化や、仮想サーバのハイパーバイザによる仮想化、そして専用ソフトウェアを搭載したサーバを経由する形の仮想化、大きく3種類の技術が存在する。ちなみにソフトウェアベースのものは、近年ではSoftware Defned Storage(SDS)とも呼ばれている。
こうした状況の中、約15年に渡ってソフトウェアベースのストレージ仮想化を手掛けているのがデータコアだ。同社のストレージ仮想化ソフトウェア「SANsymphony-V」は、サーバとストレージの間に置かれたサーバ上で動作し、ストレージ群を統合・仮想化して各サーバに対し仮想ストレージ空間を提供する働きを持つ、SDSを代表するサービスで、2013年8月時点ではリリース9.0.2が最新となっている。
サーバ仮想化の発達によりしわ寄せを受けるストレージ
ストレージの課題についてフォーチュン1000クラスの大企業CIOと活発に情報交換を行っているというホーク氏、「CIOの抱える課題はCPUでなくI/Oへとシフトしつつあります」と語る。
こういった大企業の多くは、すでにサーバの仮想化が一巡している。結果、今度はストレージの課題がクローズアップされるようになってきたというのである。
「かつては、いかに速く計算できるかが課題でしたが、CPUの高速化やサーバ仮想化技術の進展で、そのリソースを効率的に使えるようになりました。そして今は、いかに速くアクセスできるか、すなわちストレージが課題となりつつあります。コストの割合からみても、システム全体の35~70%がストレージに費やされるようになっており、SDSの重要性は高まってきているのです」(ホーク氏)
大企業向けシステムでは、ストレージの容量だけでなくアクセス速度、とりわけインプットとアウトプット(I/O)が強く求められる場面が少なくない。特に大規模データベースを用いるシステムの場合、増え続けるトランザクションを、満足できるレスポンスで処理していくことが求められ、その要求水準は年々高まっていく一方だ。しかもサーバ処理能力の向上と仮想化技術の進歩に伴い、1つひとつの物理サーバからリクエストされるI/Oは急増大している。
これをホーク氏は、「サーバ仮想化の普及が、より下の層にあるストレージにしわ寄せが及んだ結果です」と表現している。
「DBの大規模化だけでなく、ビッグデータ分析の流行もストレージに対し量的なチャレンジを突きつけていますが、もっと重要な課題は、そのデータに対しどのようにアクセスするか、どのように冗長化するか、またそれらをいかにパフォーマンスを低下させず実現するか、といった点です」(ホーク氏)
そこでストレージ仮想化、あるいはSDSに注目が集まるようになってきたというわけだ。