世の中には、食べ放題・飲み放題・乗り放題など多くの定額制サービスが存在する。例えば、ホテルなどのケーキブッフェ、居酒屋の飲み放題、地下鉄やJRの1日切符や遊園地の1日券である。これらのサービスでの倍率の例を計算してみよう。ホテルオークラのデザートブッフェが2時間3465円である。ケーキセットを普通に頼むと1575円。ブッフェで10個のケーキを食べたとすると(単純にケーキセットを10セット頼んだとすると)、その倍率は4.5倍ほどになる。この他(計算条件は割愛するが)、和民の飲み放題プランで計算すると4.7倍、東京メトロの一日乗り放題チケットでは8倍、JRの青春18切符で計算すると4.2倍、としまえん遊園地では3倍程度になる。
単純にこんな計算をしただけでもパケット料金の値付けには(元値が高すぎるか、定額料金が安すぎるかは別として)理解しがたい側面が内包されていることが分かるであろう(原価率を考慮すべきなのはもちろんであるが、ここでは割愛している)。
パケット代は、いつから、どのような理由で定額になったのであろうか。その昔、とは言っても今からおよそ10年前、当時のDDIが定額制を始めた。増え続けるメールやケータイ向けウェブサイトの閲覧に対し、請求額が法外に高額になることを避けるためである。 このDDIのサービスに追随する形で各社(ドコモ、KDDI、そして当時のボーダフォン)が定額サービスを提供し始めた。しかしながら、上述のとおり定額になるのはメールやウェブの閲覧のみであり、携帯端末をPCに接続してパケット通信を行う場合、(PHSキャリアであるウィルコム以外では)定額制は適用されず、ユーザーが使いすぎて100万円を超えるような高額の請求書が届き、パケ死という言葉が流行ったこともある。
そして、唯一の例外であるウィルコムによるPC接続型のパケット定額通信サービスは、64kbps-384kbpsという速度で、月額1万2000円くらいだったのである。ここに一石を投じたのがイー・モバイルである。新規参入でサービスエリアが狭いことに加え、音声サービスの提供はサービス開始当初には間に合わなかった。
そこで、PCに接続するドングルによるデータ通信サービスを主要サービスと位置付け、ウィルコムユーザーをメインターゲットに攻勢をかけたのである。価格は4000円ほど、スピードは3.6Mbps。当然多くのウィルコムユーザーがイー・モバイルに乗り換えた。その後KDDI、NTTドコモが追従(ソフトバンクは従量制)するものの、音声通信と比べ、電波帯域あたりの売り上げという面では非効率なサービスであり、イー・モバイル以外はそれほど積極的な商材として扱っていなかった(ドコモの鉄人28号のCMを覚えている方いますか? いつの間にか見なくなりましたが)。