求められる短サイクル化と自律的運営
当然のことだが、大容量かつ多様なデータを迅速に処理できるということは、これまで以上に短いサイクルで分析処理を行い、短いサイクルで示唆を抽出することが可能になるということである。従って、この短いサイクルで導き出される分析結果や示唆を短いサイクルで吸収、反映できる体制が求められることになる。
これは、前述した“経営判断や意思決定を迅速に企業活動へ反映できる仕組み”に加え、ある一定の事業機能自体が自ら判断や決定を下し、自律的にサイクルを運営できる仕組みを備えることで全うされる。すなわち、経営層が下した事業判断や意思決定を迅速に反映した上で、その基本的な方向性に沿って、短いサイクルで自律的に調整と向上を図ることができなければならない。
“経営判断や意思決定を迅速に企業活動へ反映できる仕組み”と、 “自らが判断や決定を下し、自律的にサイクルを運営できる仕組み”とを両立させる明確な解は、残念ながら、存在しない。しかしながら、これらを実現に近づけるヒントとなる運営体制は存在する。以下、それについて、考察を進めたい。
製造業に見られる知恵
大手の製造業者では、いくつもの工場が運営されている。安価な労働力や新たな市場を求め、海外に多数の工場を有する企業も多い。こうした事業環境の中、どの工場でも同レベルの高い品質を維持しながら、生産効率性を高める努力をし、新商品の製造も速やかに対応できる運営体制が組まれている。さまざまな努力と工夫がなされているが、そのうちの1つとしてマザー工場制がある。
マザー工場とは、国内や海外に置かれている量産工場を統括する工場で、90年代に入ってアジアに生産拠点を設ける動きが本格化し始めた頃から、その重要性が強調されるようになった。マザー工場は、企業の戦略によってさまざまなタイプがある。
もっとも基本的なタイプは、新たな製造技術を用いてプロトタイプを作り、そのプロセスやノウハウをほかの量産工場に展開するタイプのマザー工場であるが、そのほかには、重要な製造プロセスのみを集約するタイプのマザー工場や、高度な製造技術の開発とシミュレーションを繰り返し行うタイプのマザー工場などもある。いずれのタイプのマザー工場も、現代の製造業に求められる高品質性、効率性、生産性、新規性、迅速性といった要求に応えていくことに寄与している。