三国大洋のスクラップブック

マイクロソフト-ノキア「買収交渉の内幕」を伝えた2つの記事 - (page 2)

三国大洋 2013年09月10日 07時49分

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 さて。今回の合意に至る交渉で最後まで争点として残ったのが地図(位置情報)サービス関連事業の扱いだったとか、一度は袖にされたMicrosoftが条件を譲歩して両社の交渉が復活した、といった記述は両方の記事にみられるが、そうしたことを含めたマイルストーン(主なミーティングなど)をここで整理してみる。

 1月下旬:Stever BallmerからNokia会長のRisto Siilasmaaへ電話。両社の提携が期待通りに進んでいないことについて、「会って話せないか」とBallmerが打診。これで2月下旬のバルセロナ(Mobile World Congress)で会談することが決定。

 2月下旬:バルセロナのHotel Rey Juan Carlosで、BallmerとSiilasmaaが1時間ほど会談。「今後に向けてどんな選択肢がありえるか」について意見交換、これをきっかけに両社がそれぞれ本格検討に着手(買収=売却の可能性も含めて)。

 ちなみに、この一連の交渉は「Project Gold Medal」というコードネームで呼ばれ、Microsoftには「Edwin Moses」、Nokiaには「Paavo Johannes Nurmi」というそれぞれの国の五輪陸上金メダリストのエイリアスが付されていたらしい。

 4月22、23日:ニューヨークでの交渉。両社がそれぞれ用意した提案の条件や内容に大きな隔たりが有り、「われわれは別の惑星にいる」("We are on different planets")とNokiaのSiilasmaaが口にした、とNYTimes記事にはある。大失敗に終わったこのミーティングで、それでも両社は5月にまた会う約束だけは交わした。

 5月24日(の週末):ロンドンで再びミーティング(この時にBallmerの転倒事件発生)。一部折り合いが付きそうな点も出てきたものの、地図(位置情報)関連事業などの争点も浮上。交渉全体は物別れに終わる。

 6月14日(の週末):行き詰まり打開に向けて、BallmerとBrad Smith(法務担当責任者)がフィンランドへ。Nokiaの保養所で、SiilasmaaおよびStephen Elopと会談。ただし、具体的な話はあまりせず、代わりにちょうど騒動になり始めていた米国家安全保障局(NSA)の問題などを話してお茶を濁していたらしい。

 WSJで「両社が交渉、ただし物別れに」という記事が出たのがこの後の6月19日。

Microsoft Explored Deal for Nokia - WSJ

 今読んでも不可解なこの記事(交渉自体に言及した部分がほとんどなく両社の立場や業界の状況の説明に終始している、との印象を受けるもの)、どういう経緯で出てきたものかが気に掛かるが、それを知る手がかりはみあたらない。

 その後、Microsoft側が条件などで譲歩することにし、改めてミーティングの提案。一方、Ballmerは7月11日に例の大規模組織再編を発表していた。

 7月20日(の週末):ふたたびニューヨークで両社幹部が交渉。このミーティングで、残っていた地図関連事業の取り扱いなどが解決(具体的には、Nokia側で同事業を保有し続ける一方、Microsoftに関連するソフトウェアのソースコード提供ならびに独自変更を認めるという落としどころが見つかって手打ち)。両社は9月3日を発表の予定日に定め、この後両社の「現場」が詳細を詰める作業に。

 ざっと、こんな感じだったということらしい(無論、オモテに出せないこともいろいろあっただろうと想像できるが、ひとまずこれが事実上の「正史」となって残るのだろう)。

 2つの記事に目を通して、深読みしたくなるような箇所も見当たらないが、1つ面白いのは、交渉をスタートさせたのが、Microsoft側はCEOのBallmerであるのに対し、Nokia側は会長のSiilasmaaだったというところ(ふたりはその後もそれぞれの中心的役割を負っていた)。ElopがNokia側の窓口兼交渉の中心にならなかったのは、元Microsoft幹部という実際的な理由からかもしれないし――Symbianファンのなかには「Elopが、NokiaにWindows Phoneを採用されるためにMicrosoftから送り込まれた『トロイの木馬』という陰謀説がいまに残っているらしい――、あるいは2013年初めの時点ですでにElopがNokia内での影響力を失っていた、同社取締役会のなかで信用がなくなっていた、という可能性も考えられる。

 最後になるが、足掛け約7カ月にわたる交渉を続けた両社の、特に上級幹部連中が「どうしてこんなにあちこちを行ったり来たりしていたのか」というのが不思議といえば不思議な点とも思える。これだけの重大事だから「やはり膝つき合わせて」でなくては……というのは分かる。

 けれども、例えば4月のニューヨークでのミーティングでは、首都ワシントンの議会公聴会に出席していたBrad Smithが、長引いた公聴会を終えた後、それでもニューヨークに出向いた(Smithは結局ニューヨークに1時間もいなかった、とAllThingsD記事にはある)。「せっかくSkypeという自社製品があるのに、多忙な高給取りの経営幹部がなぜそれを使わないのか」。勝手な野次馬としてはそんなことも思い浮かぶが、あるいは例の米国家安全保障局(NSA)のやっていることを熟知する立場にあるはずのSmith――NSAはMicrosoftなどに圧力をかけられ、製品・サービスに「バックドア」を設けさせていた、というのが明らかになったばかり――だからこそ、「秘密を守れる通信手段などありえない」と気を利かして、わざわざ足を運ぶことにしたのかもしれない……下掲の記事などを目にすると、ついついそんなゲスの勘繰りも働いてしまうのだった。

N.S.A. Foils Much Internet Encryption - NYTimes
US and UK spy agencies defeat privacy and security on the internet - Guardian

文中敬称略

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