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組織の透明力

ブラック企業が経済的に非合理な4つの理由 - (page 4)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-09-11 11:45

4.社員間の信頼関係、ソーシャルキャピタルの毀損

 労働生産性は、社員個人の能力だけで測れるものではない。組織全体の力を考えると、社員間の信頼関係やチームワークに着目する必要がある。近年の研究で、社員間の信頼関係が基礎となる「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」が、社員個人の「ヒューマンキャピタル(人的資本)」に匹敵するほどの価値を生み出すことがわかってきた。

 例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームワーク研究(*5)を例にとろう。昼食シフト制をとっていたコールセンター組織において、協業メンバーが同時に食事を取れるよう休憩時間を工夫したところ、一般的な効率指標である「電話応対の平均処理時間」において、8%もの改善が見られたのだ。併せて、コールセンターにおける社員満足度も高まり、中には10%以上も向上した組織があったという。

 社員個人の能力だけではない。社員同士の絆にこそ経済的な価値があるのだ。この目に見えない経営資本である「ソーシャルキャピタル」は、社会学や経営学において、最も研究が盛んな分野の1つとなっている。ソーシャルメディアがもたらした価値も、世界的なソーシャルキャピタルの醸成とも言えるのだ。

 なお、社員間の信頼関係には、組織内で深いつながりを持つ「強い絆」と、顔見知り程度の「弱い絆」がある。前者は「暗黙知」をベースとしてノウハウを深める「知識の深化」に優れ、後者は「形式知」をベースにして多様な情報を収集する「知識の探索」に強みがある。一般的に、コールセンターのような成熟した産業には「強い絆」が、IT系など絶え間なくイノベーションが孵化する産業には「弱い絆」が、より重要な価値をもたらすと考えられている。

 社員同士の信頼関係を「企業の貴重な資本」として捉え直すと、今まで合理的と考えられていた経営施策は見直しを迫られるはずだ。必然性に乏しいダウンサイジングは、社内に蓄積された「ソーシャルキャピタル」を破壊するのに最も効率的な手法だ。退職社員が持っていた社内外の人間関係はもちろんのこと、社内に残された社員と経営陣との信頼関係も大きく損なわれる。特に「解雇部屋」や「ロックアウト解雇」などの非人道的な施策は、経営陣への信頼感を一瞬で崩壊させる経済的にも非合理な手段なのだ。

 

 パナソニックに吸収合併された旧三洋電機の人事部元幹部の「リストラは麻薬」(朝日新聞「リストラは麻薬。悔いる声 常習化で会社の競争力失う」) というインタビュー記事には、過度な社員解雇がもたらす負の効果が、次のように生々しく表現されている。

 「リストラは麻薬だった。一時的には人件費などの固定費が減り、業績は上がる。でも同時に優秀な人材ほど見切りをつけて流出した。残った人も勤労意欲がうせ、開発の芽が摘まれた。企業の成長力がそがれて業績はさらに悪化し、またリストラに頼る。常習性が出てくるんですよ (中略) 結局、正社員を退職させ、派遣などに置き換えただけ。競争力がなくなったのも当然だった」

 目に見えるものだけが経営資本ではない。むしろ「見えない」からこそライバルとの差別化要因になるのだ。知財、ブランド、そしてソーシャルキャピタル。三洋の事例は、安易なリストラに走り、目に見える資本と見えない資本のバランスを保つことに失敗した経営者の責任がいかに大きなものか、それを僕たちに問いかけるものだ。

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