日立、英でヘルスケア向上の実証プロジェクト--マンチェスターで25万人が対象

大河原克行

2013-09-18 15:13

 日立製作所は9月18日、英マンチェスター地域国民保健サービス(National Health Service Engrand Grater Manchester:NHS GM)と共同で会見し、英国でITを活用したヘルスケアサービス向上のための概念実証(PoC、実現の可能性を示すために簡易的に検証する)プロジェクトを共同で開始すると発表した。

 日立製作所とNHS GMは、日立コンサルティングや日本のイーグルマトリックコンサルテイング、英国の医療研究機関であるManchester Academic Health Science Centre、ヘルスケア関連の情報システムを開発する非営利法人(NPO)North West e-Healthとともに、4月からITを活用したヘルスケアサービス向上のための共同開発に向けた検討を重ねてきた経緯がある。

 今回の概念実証プロジェクトは、半年間の検討成果を踏まえている。この10月から2年間、マンチェスターのサルフォード地区で、地域の医療機関を結んだ診療履歴の一元管理に向けて、医療者が利用可能なシステムとネットワークを構築し、セキュリティとプライバシーに配慮した仕組みとして運用する。このプラットフォームを利用して、同地域の一部病院で取り組んでいる糖尿病予備軍向け生活習慣改善プログラムにITを活用し、病気にならないための効果的な生活指導プログラムを開発する。


日立製作所 執行役常務 情報・通信システム社 CSO兼CIO 渡部眞也氏

 日立製作所 執行役常務 情報・通信システム社 最高戦略責任者(CSO)兼最高情報責任者(CIO)の渡部眞也氏は、「高齢化社会の進行、生活習慣病の増加、国民医療費の増大など、医療と健康を取り巻く環境は大きく変化しており、社会的な問題ともなっている」と現状を解説した。

 「ヘルスケアサービス事業は、当社の社会イノベーション事業のひとつの柱として取り組んでいるものであり、将来的には、疾病予防サービスや、食品や医薬品の開発にもデータを活用できるよう提案していく。今回のプロジェクトはそれに向けた取り組みのひとつになる」(渡部氏)

 2012年のロンドン五輪の開会式でも有名になったNHSは国営の医療サービス事業者。NHS GMはマンチェスター地域にある10の医療コミッショングループの代表組織という位置付けだ。

 マンチェスター地域では、患者数の増大や高齢化の進行で医療資源の不足、糖尿病をはじめとする慢性疾患患者の増加による医療費の増大という課題があった。患者のヘルスケアデータの共有や慢性疾患患者の生活習慣改善のほか、複数のGP(General Practitioner=日本の診療所に相当)や病院、研究機関などに散在するヘルスケアデータを統合して、医療資源を効率的、効果的に活用する形に改善する必要性があったという。


英国マンチェスター地域国民保健サービス(NHS Grater Manchester)ダイレクター Mike Burrows氏

 NHS GMダイレクターのMike Burrows氏は、「高齢化の進行や貧困に起因する糖尿病や肥満などの問題がある。また、ヘルスケアでの運営上の問題もある。現在のヘルスケアの取り組みは何かが起こったときに対応するものであり、予防的な医療ではない。大量にデータを持っている“データリッチ”だが、使える情報が少ない“インフォメーションプア”の状況にあると言える」と現状を説明した。

 「マンチェスター地域は、ヘルスケアの組織を束ねた体制が整っており、適切な情報に基づいて適切なケアができる土壌があるとも言える。世界的な実績とノウハウを持つ日立製作所とのパートナーシップは、マンチェスター地域でのこれまでの取り組みを加速させることにつながる」(Burrows氏)

 概念実証プロジェクトでは、サルフォード地区の約25万人から、マンチェスター地域の約287万人にまでデータ共有の規模を拡大。大規模化で複雑化するセキュリティやデータ分析に対応したITを開発し、さらに、投薬履歴を管理して処方の適正化など、患者のプライバシーに配慮したさまざまなデータ活用サービスの実現を目指す。

 K-匿名化技術や病態遷移分析技術、分析用データベース最適化技術などの日立が持つデータ分析技術やプライバシーに配慮したセキュリティ技術、日本で培ったヘルスケアサービスのノウハウを活用し、「体重や血糖値、運動履歴などの情報をもとに、効果の可視化、効果的な生活指導など、レベルの高いサービスを提供できる。(入院や治療などの)メディカルの領域を超えて、(健診や健康診断、フィットネスなどの)“プレメディカル”の領域までを含めた横断的な幅広いサービスを提供することができる」としている。

 NHS GMは、日立製作所と連携し、セキュリティ技術や分析技術を活用した多様なヘルスケアサービスを提供する統合プラットフォームを構築。さまざまなサービスを実現することで、マンチェスター地域の住民に対して、質の高い医療の提供、高度な医学研究の提供に向けてプロジェクトを開始するという。

 日立製作所では、この取り組みを通じて、実サービスへの展開のほか、日本をはじめとする他の地域や国にも適用可能なITを活用した、質の高いヘルスケアサービスとして開発。広く提供していくことを目指し、「グローバルにサービスを提供するパーソナルライフソリューションパートナーとしての位置付けを担いたい」とした。


10月から始まるプロジェクトの内容

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]