機械学習の可能性
(3)でいうデータ貯蔵庫は、既存のDWHとは異なり、分散並列処理プログラミングフレームワーク「Apache Hadoop」のようなテクノロジを活用し、非リレーショナルなものも含め、今すぐに活用する目的はなくても、将来活用する可能性を考えてデータを保存する新しいタイプのものを指す。
「データは他のものとは違い、利用すれば消えてしまうものではない。一度利用したデータも、再び分析して新しい価値を生む可能性を持っている。それを考えてデータを保存しておく」
これまでのDWHは、高額なものになりがちだったが、「Hadoopと安価なストレージオプションを使えば、ぐっとコストを引き下げることができる。ある銀行では、ストレステストを受ける際、データが15の拠点に分散していたため、従来はメインフレームに分散していたデータをOracleのHadoopクラスタを活用し、データを集約。どんな質問を受けても答えることができるような体制を整えた」
(4)のデータに基づいた行動の推進とは、モバイル広告やマシン・トゥ・コミュニケーションなどデータに基づいた行動の推進を指す。「機械学習のアルゴリズムには、さまざまな活用の可能性がある。その顧客のためだけの商品価格や情報を提供するアルゴリズムがあれば、顧客との関係も変わっていく」
こうした説明を聞くと、これまで人間が担当してきたことの多くをビッグデータが代行していくように思える。その疑問に対してSonderegger氏は、「ビッグデータが素晴らしい答えを導き出すといっても、大量のデータに付加価値を与え、クリエイティビティを生み出すのは人間の役割だ」と否定する。
ビッグデータによってデータサイエンティストという役職が脚光を浴びているが、「データサイエンティストに加え、ビジネスアナリスト、業務の専門家という3タイプの人がデータを分析するようになる」という。
ビジネスアナリストとは、日本企業では馴染みがない肩書だが、米国企業にはビジネスアナリストの専門部署が存在する企業もある。SQLを使ってデータを分析する、ビッグデータ以前からあるデータ分析の専門家だ。業務の専門家とはデータではなく、業務のプロフェッショナルのことだ。
「この3つのタイプのデータを扱う人が、ビッグデータの影響で変化することになるだろう。データサイエンティストは新しいタイプの、多種多様なデータを分析する。ビジネスアナリストはこれまでは2年間のカスタマーデータを扱っていたのが、4年間のカスタマーデータを扱うといった具合に扱うデータの量が大きくなる。業務の専門家はビッグデータによって、疑問に対する答えを見つけ出しやすくなるだろう」
日本の場合、業務の専門家がこれまでの体験をもとに答えを導き出してきたが、「そういうノウハウを持った方に、ビッグデータの価値を認めてもらい、経験とデータを合わせて利用することで新しい発見があることを理解してもらいたい。そのためには、事例を紹介していくことが有効だと感じている」と積極的に事例を公開することで理解を広める。
その事例のひとつが自動車部品大手のDelphiを挙げた。商品である2万点に及ぶパーツに対し、保証期間に寄せられるクレームについて、より短時間に答えを見つけ出すための方法を模索し、ビッグデータを活用することとした。答えを導き出すためには、仮説を立て検証することが必要になるが、仮説から検証までの時間の短縮を実現した。
「このようにビッグデータを活用した成功事例が増加し、紹介できるようになってきた。ソーシャルメディアで自社の製品がどう話し合われているのかをリスニングし、新しい商品を開発するヒントを探るといったことが当たり前となってきた。企業もコミュニケーションの方法が大きく変貌していることを実感する時ではないか」とSonderegger氏は提言している。
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