9月13日に開催されたイベント「AWS Cloud Storage Day」の基調講演では、金融業向けクラウドストレージ「NASDAQ OMX FinQloud」が紹介された。このサービスは、NASDAQ OMXが米国で提供しているものであり、Amazon Web Services(AWS)のストレージサービスを活用している。
FinQloudは金融業をターゲットとしたクラウドサービス。AWSのインフラにNASDAQ OMX側が付加価値をつけた形で再販する。「AWSの全面的な協力のもと、AWSがインフラを、NASDAQ OMXが金融サービスの専門知識を付加し、安全なクラウド利用を実現する」と基調講演に登壇したNASDAQ OMX マネージングディレクター Adam Honore氏はアピールした。

NASDAQ OMX マネージングディレクター Adam Honore氏
クラウドへの懸念はセキュリティと可用性
NASDAQ OMX FinQloudは、金融業界をターゲットとしたクラウドストレージ。同社のマネージングディレクターであるHonore氏は、「われわれはサービスを提供するにあたり、金融業界でどのようにクラウドが活用されているのか1月に調査した。それから時間が経っているので、実態には少し変化があるだろうが、すでに1月時点で3分の2の企業がクラウドを利用していることがわかった。これは予想よりも高い数字であった」と金融業界でもすでに、クラウド利用が始まっていることが調査の結果から明らかになったと説明した。
その一方でクラウドに対する懸念材料として、セキュリティと可用性という2点を心配する声が多く、それ以外にもクラウド利用による遅延やパフォーマンス、内部統制なども懸念材料としてあがった。
クラウドをどのように利用しているのかについては、主に開発とテスト用に利用されることが多いが、今後12カ月で実利用へと移行することを検討するという声が多かった。クラウドストレージについては、現時点ではデータ処理量を下回る分量しか利用されていないものの、今後12カ月でクラウドストレージの利用量がデータ処理量を上回る見通しであることも明らかになった。
AWSの利用状況としては、実際に利用していると答えた企業は17%にとどまったものの、検討中と答えた企業を加えると過半数を超える割合となる。
セキュリティへの懸念を表明する金融業界でクラウドへの興味が高い背景としては、「47%の企業が現在のインフラにかかっているコストを削減するために、現在クラウドを利用しているか、今後クラウドを利用したいという声が上がっている」(Honore氏)とインフラコスト削減が要因となっている。

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こうした声に応えるものとして、NASDAQ OMXではFinQloudの提供を始めた。FinQloudは(1)企業の会計帳簿の責務遂行を支援する、書き換え、消去が不可能なストレージサービス「Regulatory Records Retention(R3)」、(2)証券会社の保存データ、文書、その他の記録をより有効に活用できるブラウザベースの管理ツール「QUERY」、(3)FinQloudの基盤を通じてAWSに直接アクセスするFinQloudクライアント「AWS Web Services」――という3つを提供している。
現在、同サービスは日本では提供されていないが、銀行を含め金融業界の26社がサービスを利用している。
「FinQloudはAWSの協力で開発できた。これはAWS側も金融業界への売り込みが必要と感じていたこと、われわれも提供するサービスは最も低コストで提供したいと感じていたことから、お互いの思惑が合致して協力することが決定した。クラウドサービスの中にはクローズな環境で提供されているものもあるが、AWSはオープンな環境でメーカーのテクノロジと組み合わせて利用できる点も金融業界のユーザーにとってメリットとなるものだと考えた」(Honore氏)
NASDAQ OMXではFinQloudを採用することで「現状を打破して、ITインフラにかかっているコストを半分にすること、企業がイノベーションに注力する体制を取れるよう支援すること、ストレージとデータの有効活用の支援という3点の実現に結びつけて欲しい」とアピールする。
AWSが提供するアーカイブ、バックアップ用ストレージ「Glacier」のようなアーカイブにデータを保存することで「時折、データを消してしまえ! といった間違った選択が行われることがあるが、アーカイブを持つことでそういった問題を回避することもできる」とクラウド活用が間違った運用を是正する効果を生むことがあるともアピールする。
データのセキュリティについても、「R3ではAWSにデータを保存する前にデータを暗号化し、AWSへは暗号化した状態でデータを保存する。われわれとAWSの間は専用線で結んでやり取りしている」と対策を取っている。
今後マーケットプレイスなど新しいサービスの提供も予定し、「現在、日本ではサービスを提供していないが、将来的には日本でもサービスを提供していくことができればと考えている」という。
最後にHonore氏は「ここ数年、コストをいかに削減するべきかという課題に取り組んできた企業が多い。しかし、本来はコスト削減にとどまらず、いかに売上増加を実現するべきかを考えなければならない。われわれのサービスは売り上げを増加させるイノベーションに挑戦するものとしても利用することができる」と訴えた。