三国大洋のスクラップブック

アップルが打った将来への布石--64ビットチップ導入の戦略的意味 - (page 2)

三国大洋

2013-09-25 13:02

64ビットへの移行で先手を打ったことの意味

 AnandTechのレビュー記事には、A7プロセッサ採用と64ビットプラットフォームへの移行にふれた箇所に、もう少し丁寧な説明が出ている。

The iPhone 5s Review - A7 SoC Explained--AnandTech

The iPhone 5s Review - The Move to 64-bit--AnandTech

 この記事の中には、たとえば「ARMが64ビット化を進め、ARMv8あるいはA64 ISAをつくったのは、データセンター向けのサーバに搭載される低消費電力プロセッサを開発して、Intelの高収益ビジネスを分捕るため」などという一節があって目を惹く。つまり「iPhone 5sには、サーバ向けにも使えそうな高性能、低消費電力のプロセッサが入っている」という見方もできる。

 この記事を書いたAnand Lal Shimpiは、2007年の初代iPhone以来、各世代のiOS端末(iPadも含む)にそれぞれいくらメモリが積まれてきたか、というその遷移(増加)を示すグラフを提示しながら、「この調子でいくと、来年に出るiPhone 6や第5世代iPadでは、内蔵メモリの容量が2Gバイトになる」「Appleがメモリ4Gバイトの壁に突き当たるのは早くて2015年、遅ければ2016年」「Appleは2年も前倒しして64ビット化を始めたことになる」などと述べている。

 さらに、Gruberの話を裏付けるように、「Xcode(Appleのソフトウェア/アプリ開発ツール)の最新ベータ版やLLVMコンパイラは、いずれもARMv8対応可能(“ARMv8 aware”)になっている」「iOS 7のリリースをきっかけに今後開発されるアプリがすべて64ビット対応になると仮定すると、Appleがメモリ4Gバイトの壁に突き当たる2015~2016年頃には、ほぼすべてのアプリが64ビット対応という状況になっている」などという指摘とともに、「ARMエコシステムの残りの部分(=ほかのARMライセンシー各社)は来年からARMv8への移行を開始するとみられている」と書き添えられている。

 ソフトウェアに限ってみると、外部の開発者も含めたエコシステム全体の移行について経験のあるAppleとそれがないGoogleとの間にどれほどの競争力の違いが生じるのか。無論Googleの今の勢いや使えるリソースの量(人材確保を含め)をイメージすると、単純に「詰めようもない差が生じる」とは言い難い気もする。ただし、同時に、AndroidにはGoogleが自らの力で何とかできそうな部分と別に、解決が難しい例のフラグメンテーションという問題も残っている。いまだに「最新OSのアップデートもままならない」「Googleの思惑に反して、通信キャリアがやりたがらない」というような話をよく見かける。

Android Fragmentation Visualized (July 2013)--OpenSignal

 上記のOpenSignalのページには、OSフラグメンテーションの感じをつかめるグラフが出ている。それによると、今年7月の時点でver. 3以前のバージョンとver. 4以降の割合はほぼ半々、そしてそれぞれがまた「.」以下で(ver 4.1とかver4.2とかいった具合に)細かく分かれている。

 この増大し続けるフラグメンテーションのせいで「Androidアプリをつくるサードパーティの負担は、iOSアプリに比べて何倍も(大変)」といった話を聞いた覚えもある。そして、そんな大変さに輪をかけるように「64ビット機と32ビット機の混在」という問題が大きく浮上してきたとき、サードパーティのアプリ開発者はどんな選択を下すのか……かつてMacでサードパーティ製ソフトウェアの少なさに散々泣かされたApple、OSの移行でもMicrosoftやAdobeあたりに随分手こずらされた経験もあるAppleだけに、「さすが」というか、かなり面白いところに目をつけてきたものである。また、Appleが23日の発表の中で「iOS 7のダウンロード数(インストールベース)がすでに2億台に達した」と強調している、そのことの真意も改めて伝わってくるように思える。

 モバイルOS用アプリの64ビット移行という楔が、競合他社に対する戦略面的な部分で、ボディーブローのように効き目を表すものか、それともダイナマイト仕掛けの時限爆弾になるかはまだよくわからない。ただし今後注目すべき点のひとつであることはほぼ間違いないとも感じられる。

 なお、AnandTechのこのレビュー記事には、A7以降のAppleの64ビットプロセッサが「この先、Macにも採用されるかどうか」という可能性に触れている箇所もある。そして、「2年くらい前、AppleとIntelの関係がもっとギクシャクしていたころなら(そういう動きも)あり得たかもしれないが、今の両社の良好な関係や、A7とIntel製Haswellとの間に大きな性能の差が存在することを考慮すると、AppleがMacのプロセッサを自社開発のAシリーズ製品に切り替えるというのは当面ありそうにない」との見解が示されている。

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