組織の透明力

数字か人か--現代のビジネスを揺さぶる核心 - (page 2)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-10-01 11:45

ミクロ視点の原点、人間関係論

 さて、その後の東京中央電気をのぞいてみよう。大和田社長が科学的管理法で工場を拡大していく一方で、現場の星、半沢直樹が人事部長に就任したようだ。

 1935年、東京中央電気は大量生産に磨きをかけていたが、一方で労使間の対立は深刻化していった。そんな悩み多き時代に、若き半沢直樹が人事部長に就任した。ある日、半沢は「ホーソン実験」*1 という記事を見つける。そこには、彼の常識をくつがえす驚くべき内容が書かれていた。労働者の意欲こそ生産性に影響を与えるという実験結果だ。

 この考え方は、労働者を「心のない機械」として扱う大和田社長の方針と真っ向から対立するものだった。半沢部長は、古くから現場社員とともに歩んできたので、職場の連帯感や信頼関係を大切にする「人間関係論」に強い共感を感じた。彼は現場社員との対話を丁寧に進め、彼らの意見を職場改善に取り入れていった。社員たちは半沢の施策を支持し、労使の対立を緩和させることに成功した。

 有名な「ホーソン実験」から導きだされた結論は、お金やオフィス環境による動機づけより、職場の人間関係の方が生産性に大きく影響するということだった。これをもとに生まれた「人間関係論」は、ミクロ視点(人間視点)のマネジメントの原点となるものだ。それ以降、マクロ視点(事業視点)とミクロ視点(人間視点)のマネジメント論は、それぞれの系統に分かれ、お互い刺激しながら研究が進んでいくことになる。

大戦後、マネジメントの時代が到来

 第二次世界大戦を経て、焼け野原から奇跡的な経済再建が始まったころ、東京中央電気ではついに半沢直樹が社長に就任した。

 1950年、朝鮮戦争の特需で日本復興が本格化。社長に就任した半沢が最も影響を受けたのはピーター・ドラッカーの著書『企業とは何か』だった。企業は単なる収益マシンではない。社会組織として自社がどうあるべきか、企業の社会的使命を真剣に考えるようになったのだ。そのころ、工場にも新しい風が吹きはじめた。製造部長に就任した大和田暁の息子が、品質管理や工程管理など最新の手法を工場運営に取り入れ、機械による自動制御にも着手したのだ。工場が機械化されると、社員の担当すべき仕事は、機械にこなせない高度な労働に進化していく。半沢社長は、そんな現場社員たちの士気やモラルを高めるために、リーダーシップや動機づけなどに力を入れはじめた。

 「もしドラ」で有名なピーター・ドラッカー、彼の登場によって「マネジメント」という言葉が広く一般に使われるようになる。ドラッカーの理論は科学的な手法で検証されたものではないため、学問の世界では軽視されているものの、ビジネスパーソンの間ではその名言が神格化され、その後の企業経営にも大きな影響を与え続けた。

 この時代はマネジメントが急速に発展した時代だ。ミクロ視点(人間視点)のマネジメントでも科学的なアプローチが進み「行動科学」として進化してゆく。その流れで登場したのが、アブラハム・マズローの「欲求段階説」やダグラス・マクレガーの「X理論Y理論」などだ。

 それぞれの理論で、前提とする人間観が異なっているのも興味深い点だ。

  • 科学的管理法の人間観は、人は金を求めるものだとする「経済人モデル」
  • 人間関係論の人間観は、仲間との信頼や連帯感を求めるものだとする「社会人モデル」
  • 行動科学の人間観は、自分の潜在的な能力を高めて実現したいとする「自己実現モデル」

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