情報通信白書に見る情報通信政策の現在と未来(前編) - (page 4)

田島逸郎

2013-10-03 07:30

スマートICTの新しい問題への対応

 スマートICTが進展しつつある現在、プライバシーなどの問題がよりデリケートになり、従来のサイバー犯罪の意味合いも大きく変わりつつある。そのような「負」の側面は、日常生活にさらに密着しつつあるICTにとって大きな問題になる。このような問題は行政も大きく関わってくるため、情報通信白書が非常に参考になるだろう。

パーソナルデータの問題

 人のプライバシーに関わるパーソナルデータの問題は、ビッグデータの活用にとって非常に重要な部分で、きちんと考慮した上で活用する必要がある。ICカードの利用履歴などのライフログの扱いや、スマートフォンでのサービスの利用ログなど、多くの情報がさまざまな場所に蓄積されつつあり、しかもそれが容易に流通している。このような状況では、安心してサービスを利用するためにはある程度制度や政策による適正化が必要になる。

 パーソナルデータの流通では既に多くの問題が起きている。スマートフォンには、住所、パスワード、位置情報、アプリの利用履歴、写真など多くの重要な利用者情報が記録されている。これらを自動で収集、外部から閲覧可能にするサービス/利用規約が問題になった。また、スマートフォンのプラットフォーム事業者が位置情報を無断で収集、送信している問題も起きている。


スマートフォンにおける利用者情報の例 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)、原出典:「総務省「スマートフォンプライバシーイニシアティブ」

 パーソナルデータについては、従来から個人情報保護法や総務省、消費者庁の方針、指針によって制度が決まってきた。米国では分野ごとに行政機関が自主規制を監督し、必要に応じて罰則などを適用してきた。また、「消費者プライバシー権利章典」では情報を提供した経緯を尊重するなどの条項がある。EUでは、各国でデータ保護機関を設け、データの内容や取り扱いなどを監督している。これらと「データ保護規則提案」などにより、適切な監督と自由な流通を両立させている。また、OECD、APECなども原則、枠組を用意している。このように、各国でプライバシー保護とパーソナルデータの活用を調和させることを目的としているが、その具体的なルールが明確になっていないという問題がある。

 政府の政策としては、プライバシー・コミッショナー制度という専門家が迅速、適切に問題を処理できるような第三者機関を作る制度や、複数の企業などが参加するマルチステークホルダープロセス、小規模事業者の扱いなど、さまざまな制度整備が検討されている。

脅威を増すサイバー攻撃

 サイバー攻撃は従来からICT活用の課題になってきたが、生活に密着した情報が狙われる危険性が増しており、またスマートフォンなどの普及で対策も困難になっている。

 近年のサイバー攻撃の対象は多岐にわたる。まず国家・企業の機密情報であるが、マルウェアなどの新しい潜入手法が用いられている。また、中小企業の被害も増えている。スマートフォンでは、前述のパーソナルデータが標的にされるほか、BYODによって個人で持ち込んだ端末が標的にされ、企業の機密情報が窃取される危険がある。このほか、ソーシャルメディアのアカウントの乗っ取り、政治的なハッキング、遠隔操作による冤罪事件など、多様化すると共に深刻さを増している。


Android及びパソコンにおけるマルウェアの増加 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)、原出典:トレンドマイクロ

 このような動きを受けて、政府は「サイバーセキュリティ戦略」を決定した。単に技術面での対策だけでなく、世界との連携、セキュリティに関する産業や人材育成などの実空間への展開も目指している。

データの扱いに安心できない社会

 これらのプライバシーやセキュリティの問題は、従来から法的な規制はされてきたものの、全ての人や企業がきちんと対処すべき問題としては扱われていなかった。しかし、今やパーソナルデータが大量にさまざまな場所にあふれ、それを得ようとする攻撃者、および守る側も非常に広い範囲にわたっている。

 それを受けて、パーソナルデータの活用の線引きやセキュリティ情報の共有なども、より広い範囲の人が関わる形で行う必要が出てきている。パーソナルデータを扱うなら、その可能性と共にリスクを常に意識しておくことが重要だと考えられる。

 後編では、情報通信白書の残りの部分(オープンデータ、社会的課題の解決、イノベーション)について解説し、改めて「スマートICT」の潮流をまとめる。

田島逸郎
いくつかのスタートアップに関与しながら、スマートフォン情勢に関心を持ち、個人的に調査、記事の執筆などを行っていた。現在は地理空間情報系のスタートアップで、主にGISやオープンデータなどに携わる。

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