「Wikipedia」のデータの関係性をグラフ化する試みがありました。英語版のすべてを(HPCシステムの)「SGI UV 2000」に取り込み、過去200年間の歴史的事象に対するWikipediaの見解を明示した例です。これは、前述の例でいえばどんな針を探しているのか分からない状態だといえます。
歴史についての記述と、そこで言及している場所と年代を地図上に表示してみました。それぞれの事象は、位置情報や日付情報のほか、内容の傾向、つまり肯定的または否定的――などと関連付けられています。肯定的であれば地域と地域は緑色の線で結ばれ、否定的傾向であれば赤で結ばれます。その結果、ある国と国との間に紛争が起きる1年前には、両国間に赤い表示が増えてくるのではないかとの推測ができました。これを利用すると、何らかの紛争が起きるかどうかを予測できるかもしれないのです。
SGIはWikipediaを通じて過去の世相を見る試みをしている。第2次世界大戦が起きていた1945年あたりに赤が目立つ。紛争の1年前に兆候をつかむなど、未来の予測に使えるかもしれないとしている。
近未来、コンピュータは身体に埋め込まれるか?
--変動が速いIT産業の先を読むには?
私は次世代の製品を開発するため、水平線の向こう側、なかなか見えないようなところを眺望するレーダーのような仕事をしています。具現化は3年先になるようなアイデア段階のものをテストするなど、市場のトレンドを観察していくことが重要になります。このような市場への注視を続けていると3年ほど先も見えてきます。
--3年後の技術では、何に注目しているのか?
1つはビッグデータやHPCのシミュレーションなどの可視化です。また、個人向けの端末の変遷も興味深いところです。ノート型パソコンはこの20年くらい人気がありました。デスクトップ機が中心だったころ、エンドユーザーとディスプレイの距離は、腕の長さより長かったのですが、デスクトップからノート型機への流れとともに、この両者の距離は縮まりました。欧米では、ノート型に代わりタブレットの普及率が一段と高まり、人とスクリーンの距離はさらに短くなります。
今年中にも「Google Glass」が発売されるようですが、今後10年ほどで非常に小さな電池が開発され、メガネ型端末がさらに伸長するかもしれません。デスクトップからラップトップ、モバイル、ウェアラブルという潮流の先には、ひょっとすると、コンタクトレンズや歯への埋め込み型という形式が現れる可能性さえあるでしょう。
--経営の指針となるのは、どのようなことか?
経営には、2種類の手法があります。1つはほとんどすべてのトレンドを観察、分析し、そこから予測して、どういう投資をするか決定します。2つ目は、まず独自の理想像を描き、それを機軸に分析し実行すると、周囲がそれに追随するというようなもの。前者はトレンドをフォローし、後者はトレンドを創造していくわけで、これは限られた人、例えばAppleのCEOだったSteve Jobs氏のような人にしかできません。トレンドを創り出すのはコンピュータの領域でも困難です。それでもわれわれはこの2つのやり方のバランスを取って進んでいきたいと思っています。