情報通信白書に見る情報通信政策の現在と未来(後編) - (page 4)

田島逸郎

2013-10-04 10:14

活発になるICT産業

 近年のICT関連産業では、SNSなどのソーシャルメディア、スマートフォン端末などを提供する「上位レイヤー」、特にプラットフォームレイヤーが大幅な発展と熾烈な競争を見せている。一方で、国内で人気を博しているソーシャルゲームでは、プラットフォームに頼らない展開も見られる。スマートフォンとテレビを組み合わせた「スマートテレビ」も放送業界の起爆剤として整備が進んでいる。

 ベンチャー企業もリーマンショックを乗り越え、再び活況を呈している。初期段階の「シード」が大きく増えており、投資やIPOも増加している。また、ベンチャーキャピタルが将来性のある企業を重視する傾向になっている。ICTベンチャーの上場を見ると、前述のプラットフォームを活用した小規模なスタートが活発になっている傾向にある。

 リーンスタートアップやクラウドファンディングなどの新しいビジネス手法、3Dプリンタなどの新技術などの環境の変化が、発展を支えている。また、支援体制も投資の枠を超えたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やコンテストなど充実している。しかし、日米で比較すると大きく差が付いている状況である。


「ICT分野の動向とベンチャー起業環境の進化」 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年)

 グローバル展開については、新興国で携帯電話や移動体通信の伸びが著しく、国内からもICT利用企業のASEAN地域への積極的な展開が行われている。現地法人だけでなく、M&Aなどを活用して、現地に根付いた販路などを確保するケースが増加している。

 グローバル展開のビジネスモデルについては、通信機器からソフトウェアまで幅広いICT産業を、競争力のある形に組み合わせていくものが5つ提示されている。現地の地縁を生かした通信事業者展開、システムを全般的にサポートするICTサービス展開、ICTを絡めた社会インフラを構築していくインフラ輸出展開、通信機器を水平展開する機器ベンダー展開、そして端末を利用したアプリケーションのプラットフォームを展開するプラットフォーム展開だ。それぞれについて詳細に解説してある。


「ICT産業におけるグローバル展開モデル」 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年)

 放送産業では、クールジャパン戦略にも絡めたコンテンツ展開が、海外展開にとって重要である。新興国ではテレビの成長がまだ著しく、広告費の比率も高い。放送産業のグローバル展開のモデルは、番組の制作協力やフォーマットの販売などのコンテンツ提供型と、キャラクタービジネスやパッケージ展開などのコマース連携に分かれており、入口と出口が多様化することで各地に柔軟に対応している。4K/8Kといったスーパーハイビジョンも、非常に高精細なためテレビ以外の医療、デザイン、博物館などに導入される可能性があり、他の産業分野への波及が期待される。

イノベーション創出の現状と課題

 経済成長の重要な要素であるイノベーションについては、日本の国際競争力は低下しつつある。製品やサービスの改良による「持続的イノベーション」は多く起こっているが、グローバル化によってすぐに他者にキャッチアップされてしまう状況にある。また、従来の製品やサービスの価値を破壊するような「破壊的イノベーション」が不足している。その理由について、幅広くまとめられている。

 まず、企業内部での問題を取り上げる。企業の研究開発費自体が減っており、研究開発費の中でのベンチャーなどへの投資も少ないことが挙げられる。国の科学技術予算自体も減少傾向にある。次に、大きな収益率につながる革新的なイノベーションがあまり起こっていない。また、現在はモノ余りの時代であり、従来の足りないものや優れたものから、コミュニティやサービスなどへとニーズの変化が起こっているが、それに追従できていない問題もある。最後に、大企業などが社内で技術を完結させる「自前主義」に陥っており、海外やベンチャー企業などの技術を導入できていない問題がある。


「革新領域からの成果(革新的成果)の日米比較」 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省情報通信審議会情報通信政策部会イノベーション創出委員会中間とりまとめ(「日本企業のイノベーション実態調査~「成長企業」の創出に向けて~」(2013年1月)デロイトトーマツコンサルティング株式会社、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー株式会社)

 外部要因では、まず人材の不足が挙げられている。特にICT人材やビジネスを立ち上げる人材(ビジネスプロデューサー)が不足しており、また研究者や起業家の周囲に支援する広報や知財などの専門家や、投資家が十分にいない問題がある。

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