情報通信白書に見る情報通信政策の現在と未来(後編) - (page 5)

田島逸郎

2013-10-04 10:14

 起業を妨げる心理的、社会的要因もある。まず、成功への道筋が明らかでないプロジェクトで目標達成を重視したり、資金調達で個人がリスクを負うなど、失敗が許されない雰囲気や、失敗を恐れる雰囲気がある。また、技術力があるにも関わらずマネタイズに失敗することが多く、起業への自信を失っている問題がある。学生にも将来に強い不安がある。

 社会的要因としては、「イノベーションのジレンマ」により既存のニーズを重視したり、試行を繰り返すアジャイル開発などで新たなニーズを発掘する試みができないという問題があるが、そこでもリスクを取れないため打開が難しい。また、「出る杭は打たれる」という精神風土や、短期的成果を求める状況、法制度の不備などでイノベーションが阻害される。

 以上を踏まえて、政府では新技術・サービス創出、潜在的なニーズの視点に立った技術の活用、自前主義・自己完結主義からの脱却、イノベーション創出を促す環境の整備などの取り組みを行う必要があると整理している。

まとめ 「スマートICT」の世界観

 「スマートICT」は、最初に触れた際には比較的あいまいなコンセプトだったが、個別にテーマを見ていくと全貌が浮かび上がってくる。まず、「プラットフォーム」の存在が大きい。プラットフォームは、Googleに代表されるウェブの枠を超えて、社会インフラとしてのICT、またICT以外の社会インフラにも波及して、広く社会的課題を解決する可能性を秘めている。大きなプラットフォームがもたらす可能性は、クラウドやソーシャルメディア、ビッグデータなどの登場で再発見されたといえる。その半面、プラットフォームが大量のデータを扱うこと自体が、新たなリスクとなってセキュリティやパーソナルデータの問題を顕在化させた。

 また、プラットフォームだけを重視すればいいという問題ではない。オープンデータの流れで見てきたように、個別の企業や市民が活用して初めてプラットフォームが活きてくると言える。しかし、それを育てていく起業やイノベーションについては、大きな壁が存在する。プラットフォームの構築から、新しい活用アイディアを育てて広めていくまでのサイクルが今後重要となる。

 本記事では、300ページ以上にわたる巨大な資料である「情報通信白書 第一部」の概要をまとめた。このため、膨大なアンケート資料やグローバル展開のさまざまな形について紹介しきれなかった部分もある。関心を持ったトピックがあれば、是非情報通信白書を参照して欲しい。「情報通信白書」は、それ自体がオープンなライセンスを明示してあり、スマートフォンアプリも公開されているため、いつでも見ることができるようになっている。ビジネスを支える重要な資料になるはずである。

田島逸郎
いくつかのスタートアップに関与しながら、スマートフォン情勢に関心を持ち、個人的に調査、記事の執筆などを行っていた。現在は地理空間情報系のスタートアップで、主にGISやオープンデータなどに携わる。

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