この2社が地デジ化で空いた周波数帯を用いて携帯向け放送事業に参入する際に、その免許取得で激戦を交えたのである。その結果、ドコモ系のmmbiが免許を取得し、鳴り物入りでNOTTVのサービスが開始された。
しかしながら、NOTTVの黒字化は遠い。契約者が100万人を超えたということであるが、今後この数字が順調に伸びるとは考えにくく、また、このたびドコモがめでたく取り扱うことになったiPhoneではNOTTVは見られない。
そもそも有料(月額420円)で番組を見ようというユーザーが限られていることは明確なはずである。マス向けであれば、有料化できるようなコンテンツは、地上波で高視聴率を誇る一部の番組や新作映画、人気映画など、特定の例外的な番組のみであろう。
あるいは一部のマニア向けのコンテンツであれば有料でも視聴したいユーザーはいるであろうが、その数は限られている。さらに、ネット上には無料のコンテンツがあふれかえっているのである。
これに対し通信事業者は、従来の思想から抜けきれないのか、加入者に対し課金をする、あるいはコンテンツそのものを有料で買ってもらう――そういうビジネスモデルを志向している。
そうではなく、放送は視聴者、番組提供者のみならず、広告主という第三者を交えてビジネスの生態系を構築したことに価値がある。また、テレビショッピングなど放送コンテンツではない収入源を見出したところこそ見習うべき点ではないだろうか。
通信もコンテンツやトラフィック量そのものに課金できなくなる日が近づいていると言ったら言い過ぎであろうか。
通信事業者が考えるべきは、ゼロ円課金でも利益が出るようにするにはどうしたらいいだろうか、という命題だと思えるのである。
東京五輪という確実に視聴率を獲得できるコンテンツがやってくる。ここに向けて放送と通信の融合という話題が再燃する日は近い。それまでに通信事業者が新たなビジネスモデルを確立できるかどうか。
時間は刻一刻と迫っている。
- 菊地 泰敏
- ローランド・ベルガー パートナー
- 大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)
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