HTML5の成熟度
ZDNet Japan HTML5はどのぐらい成熟しているのでしょうか? ネイティブとの比率はどのように変化していくと考えていますか?
Brown ネイティブかHTML5か、この問題がなくなるとは思えない。iOSとAndroidなどのモバイルOSが健全な競合により進化を続けることにより、ネイティブは常にユーザー体験でHTML5を上回るだろう。企業は、ネイティブか、HTML5などのコンテナアプローチか、ビジネス上の決定をする必要がある。
SAPは重荷を軽減するという点で支援できる。モバイルアプリ構築では、プラットフォーム統合関連、機能の構築、モデリングなどさまざまな作業が必要で、ここを軽減し、HTML5とネイティブの組み合わせに向けた機能強化も図る。
HTML5は従業員向けのアプリとしては十分なレベルにある。(好みがはっきりしている)営業や幹部向けにはネイティブの方がいいかもしれないが、それ以外ではHTML5でいいのではないか。先日、約10社の顧客とユーザー体験についてミーティングしたが、その中にはネイティブをこれからHTML5に移行させようとしているところが複数あった。SMP 3.0では、部門によってはネイティブ、HTML5と変更できる。
1つの考え方として、HTML5の場合は(必須である)端末上のブラウザサポートのほか、各プラットフォーム上での性能を考える必要がある。次に、望むようなユーザー体験を実現できるか。HTML5ではネイティブに近い外観のアプリを作成できるが、一部のジェスチャーが使えないなどの制約がある。
ユーザーが使ってくれないことには意味がない。例を紹介すると、ある企業ではHTML5版とネイティブ版の両方を用意した。ダウンロードの数は同じぐらいだったが、利用率はネイティブが上回った。そこで、HTML5バージョンは削除してネイティブ一本にした。ユーザーがネイティブに「投票」したといえる。だからといってHTML5をやめることはない。また別の端末やアプリでHTML5に挑戦すればいい。
やってみて、修正して、また公開のサイクル
モバイルのメリットは、まずはやってみて、うまくいかないと分かったら修正してまた公開……。このサイクルを繰り返すことができる点だ。ユーザーのフィードバックに耳を傾け、間違ったと思ったらすぐにやり直せばいい。そういうことができるのがモバイルだ。素早く動くことが大切だ。SMPはこのような高速サイクルを技術面から支援する。
ZDNet Japan モバイルファーストと言われていますが、GoogleやFacebookなどコンシューマーから進んでいるようです。エンタープライズでのモバイルファーストの現状は?
Brown ほとんどの企業がモバイルファーストとは言えないのではないか。SAP自身ももっとモバイルファーストを進めていくべきだと思っている。
問題は、インフラが足かせになっていることだ。アイデアがあっても「バックエンドプロセスを変えなければならない」という問題にぶつかる。ある政府系顧客ではモバイルアプリの提供に当たって、バックエンドプロセスの問題が出た。
そこで「足りない機能はクラウドを利用してはどうか?」と提案した。クラウドならリスクが少ないし、すぐに始められる。これがモバイルファーストだ。
バックエンドシステムを考えるのではなく、アプリとクラウドを活用し、これをどうやってバックエンドと連携するかを考えればいい。モバイルを最初(ファースト)に考えるのがモバイルファーストだ。どうやったらモバイルユーザーが簡単に、便利になるかを考えるべきだ。そうすると業界の流れを変えるようなゲームチェンジャーが生まれる。(思考を変えるには)まだ時間がかかるだろうが、一部アーリーアダプタが出てきており、確実にこの方向に向かっている。
ZDNet Japan モバイルファーストへの変化に当たって、何から始めればいいでしょう?
Brown モバイルファースト思考ができる人に投資すべき。モバイルユーザーを本当に理解しているのか、再考するのもよいだろう。よくあるのが、機能の盛り込み過ぎ。たくさん用意した機能の3割ぐらいでよいのかもしれない。スマートフォン、タブレット、PCではそれぞれ、ユーザーが利用する機能数は異なる。
システム側では、モバイルファーストのためにバックエンドシステムをアップグレードするのは推奨しない。これは悲劇的で、モバイルファーストは起こらない。もっとオープンになって、新しい技術を活用してどうやって実現していくのかを考えるべきだろう。