組織の透明力

リーダー不在で数万匹が整然と動く--昆虫の驚異に学ぶ組織を動かすシンプルなルール - (page 2)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ) 2013年11月21日 07時30分

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シンプルなルールが支配する、社会性昆虫の世界

 ハチは社会性を持つ典型的な昆虫だ。例えば、蜜源となる花を一匹のミツバチが見つけると、ものの数分もしない間に多くの仲間が押し寄せてくる。ヒトの組織であれば、発見者がその情報をリーダーに伝え、彼の指示によって部下が現場に向かうはずだ。しかしながら、ミツバチにはリーダーはおらず、組織という概念すら持っていない。彼らはどんなメカニズムで、このような協調作業を実現しているのだろうか。

出典:Bee Tidings
出典:Bee Tidings

 秘密は彼らの「収穫ダンス」にある。蜜源を発見したミツバチは、巣に戻ると八の字に飛ぶダンスをすることが発見された。そのダンスは正確な意味を持っており、太陽に対する角度が「方向」を、お尻を振るリズムが「距離」を、踊る時間が「蜜源の質」をあらわしている。

 巣に戻ったミツバチがダンスを踊る。それを見て仲間たちが飛び立っていく。応援の必要がなくなると、彼らはダンスをやめる。このシンプルなルールが、本能で動くミツバチの群れを動かし、最適な労働力を素早く現場に投入するシステムを実現しているのだ。

 ハチやアリの巣はコロニーと呼ばれるが、その内部では、幼虫の世話や巣の維持、餌の探索など多くの仕事がある。種によっては数万匹にもなるコロニーの中で、彼らは統率なしにどう仕事を分担しているのだろうか。ここでもいくつかのルールがあることが発見された。

 例えば「年をとった個体ほど危険な作業に向かう」というルールがある。若い時には幼虫の世話を行い、次第に巣の維持に従事するようになり、年老いてくると巣の外に餌を探索に出かける。種全体の生存から見れば、年寄りは寿命が短いから危険な仕事をしても損害は少ないというわけだ。

 また「同じ仕事をする仲間が一定量に達すると、その仕事をやめる」というルールがある。例えば、食料調達アリは接触し合うことで周囲の仲間の量を判別でき、その数が一定以上になるとコロニーに戻って行く。それによって仕事の適正配分が実現されている。個体の母数が多いため、個々の意思決定の誤差は相殺され、適切な行動として集約されていくのだ。

出所: HYPNOGIGC ZOO
出所: HYPNOGIGC ZOO

 さらに「仕事に対する積極性に個体差がある」ことも分かってきた。例えば、ハチは「ある温度になると、羽ばたきを始める」という習性を持つ。ただし、反応する温度には個体差がある。そのため、巣が熱くなるにつれて、羽ばたくハチが徐々に増え、自律的に冷却される仕組みになっているのだ。

 このように、ハチやアリは、予測不可能で常に変動する自然環境の中で、統制なしに最適な業務配分ができるシステムを見事に構築しているのだ。

ハチやアリに学ぶ、分散組織のエッセンス

 ハチやアリは自らの本能に従い、個体同士が相互作用しながら、コロニー全体はあたかも1つの生物のように整然と機能している。昆虫たちの見事な分散組織が成立するポイントを3つにまとめてみよう。

  1. 昆虫は、全体を整然と機能させるシンプルなルールに従って動く
    蜜の在り処を伝えるダンスのように、長い年月をかけて築かれた「絶妙でシンプルな ルール」が分散組織の根幹となっている。このルールによる個体の相互作用が、指揮 者不在のシステムを成立させている

  2. 昆虫は、バランスのとれた多様性を持っている
    ルールはすべてに共通というわけではなく、働く仕事や働き始めるタイミングなど、 個体によって異なっている。多様性を持つ個体が集まることで複数のルールが組み合 わさり、共同作業がシンフォニーの如く整然と行われることになる

  3. 近隣の昆虫同志、緊密なコミュニケーションを行っている
    近隣のアリ同志は、絶えずフェロモンを介してコミュニケーションをとっている。 「こっちに食べ物がある」「逃げろ」など10ほどの交信サインを濃淡まじえて交信す る。この局所的な相互作用がコロニー全体に共有情報として広がる

 アリの集団は極めて大規模で、中には数億匹で形成されているメガコロニーも存在する。国の総人口をも超える集団が、リーダー不在で何十年も存続するメカニズムに、僕たち人間は驚異を感じざるをえない。

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