福島県会津若松市で進行中のスマートシティプロジェクト。現在は復興予算なども投入されており、活発な動きが展開されている。ただ、プロジェクトを持続的に成長させるためには、いくつかのハードルを越える必要がある。
そのハードルをクリアできれば、他地域のスマートシティ計画にも貢献することができるはずだ。あわせて“日本発スマートシティ”の可能性についても考えてみたい。
いかに持続的に成長させるか
これまで3回にわたって、会津若松スマートシティの現状を見てきた(第1回、第2回、第3回)。スマートシティ化は長期にわたる取り組みであり、プロジェクトはまだ始まったばかりだ。とはいえ、産官学連携の推進体制という土台の上で、スマートグリッド事業のような先行プロジェクトが成果を上げつつある。
今後の大きな課題の1つは、プロジェクトをいかに“自走”させるかということ。会津大学の理事・復興支援センター長を務める岩瀬次郎氏は、その課題感を「事業予算がなくなった後にも、スマートシティをいかに持続的に成長させるか」と示す。
個別のプロジェクトを見ると、現状では復興予算などの政府資金が投入されたものが多い。これで数年間の事業を引っ張ることはできるが、問題はその後だ。
最も望ましいシナリオは、受益者負担によるプロジェクトの推進だろう。例えば、100世帯に家庭エネルギー管理システム(HEMS)を配布したスマートグリッド事業。すでに消費電力3割程度の削減との効果が出ており、このことが評判になれば「HEMS設置費(の一部)を負担するから参加したい」と住民の側から手が挙がるかもしれない。ただし、説得力のある費用対効果の数字が示せるようになるには、HEMS設置コストのさらなる低減を待つ必要があるだろう。
将来的には、社会コスト削減分が原資になる可能性がある。アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長の中村彰二朗氏は「例えば、医療ビッグデータを活用することで、増え続ける社会保障費を抑制することが可能。ほかにも、スマートシティによって社会コストを削減できる部分は多くあります」と言う。
コスト削減分の一部を協力者へのインセンティブに、残りの一部をプロジェクトの推進費用に充当するといったスキームができれば、スマートシティの持続的な成長が支えることできるはずだ。また、個人情報の問題をクリアした上でという前提だが、医療やエネルギー消費などに関するビッグデータ、その分析結果の販売から収益を得られる可能性もある。
ステークホルダーの合意形成プロセス、制度設計を含むエコシステムづくりは、スマートシティの重要なカギになる。産官学の関係機関が適度なサイズのエリア内に立地する会津若松のプロジェクトには、そうしたノウハウの蓄積が期待されている。そのノウハウをいち早く確立すれば、他の地域で計画されているスマートシティにも貢献できる。日本発スマートシティを世界に輸出する際のアドバンテージにつながる可能性もある。
ビジネスチャンスをモノにできるか?
最後に、日本発スマートシティの可能性について考えてみたい。
スマートシティにおけるソフト面については、会津若松市を含めて、日本各地のプロジェクトで試行錯誤が続いている段階と言っていいだろう。一方のハード面は、日本企業が強みを生かせる分野だ。
日本のモノづくりについては、しばしば過剰品質が指摘される。「品質や機能を多少落としても、価格を抑えた方が売れるはず」というわけだ。ただ、スマートシティに関して言えば、少なくとも耐久性や可用性といった意味での高品質には大きな意味がある。スマートシティの構成要素の多くは、それぞれが十年単位で使われるものだ。ミッションクリティカルな要件が求められるものも少なくない。