前回は実際のスマートデバイス導入現場には、セキュリティや人事制度をはじめ考えるべきことが多くあり、それが企業を頭を悩ませている現状について解説した。
一方、先行してスマートデバイスを導入している企業に聞いてみると、社給やBYODに関係なく、こうした検討事項をうまく解決している企業が多い。例えば、在宅勤務制度や残業申請などの制度問題については、運用でうまくカバーできている企業もある。
各社と意見交換をしていく中で、ハッとさせられたコメントがあったので紹介する。
質問者 「タブレットなどの持ち出しについてどのような対策をしていますか」
回答者:「MDMやガイドラインといった一般的なセキュリティ対策は実施しています」
質問者:「何か特別な対応はしていますか」
回答者:「特にしていません。タブレットはノートや手帳と違うものでしょうか。むしろ、リモートワイプやパスワードが設定してあるデバイスの方が落とした際に安全だと思いませんか。手帳やノートは落としたら外から消去できませんが、スマートデバイスはリモートワイプ機能を使って遠隔地からでも情報を消去できます。また、パスワードロックをしていれば、中身を見られにくくなります。手帳やノートの持ち出しに、今まで何かの制限をかけてきたでしょうか」
質問者 「現状PCの持ち出しを許可していないとのことですが、スマートフォンやタブレット導入の際に、帰宅後のメール閲覧や電話などについて、残業申請の対象にしていますか?」
回答者:「していません。もちろん、上長から業務を開始するような明確な指示として読み取れるようなメールや、電話があれば残業として扱いますが、多くは5分程度のことなので、それを残業として申請させるのは従業員にとってむしろ負担になります。PCやタブレットがなかった時代に、自宅でノートや裏紙に企画案などの整理をしていた人はたくさんいたと思いますが、それを残業として申請していたとは思えません。なぜ、PCやタブレットで仕事をするそれを残業として扱うのでしょうか」
紹介した2つの事例で伝えたかったことは、意外に「常識の範囲」で運用をしているということである。
もちろん、非常識なことが起こり得るので、そのためにルールを設計し、運用を厳密化することになるわけである。しかし、多くの企業が異口同音に話していたのは、モバイルのメリットを得るためには、あまり厳しすぎる制度設計は避けるべきであるという点だ。
ユーザーの利用機会を奪ってしまっては意味がない。