三国大洋のスクラップブック

イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズ――「思い込みの強さ」も天才の証 - (page 2)

三国大洋

2013-11-26 18:03

 世の中のあり方を激変させるようなアイデアは、過激な分だけほかの人から理解を得にくい――「そもそも無理な話」「うまくいく可能性はかなり低そう」といった反応を招きやすく、そうした懐疑(場合によっては嘲り)の声を跳ね返してアイデアを実現するには強い確信が必要……といったことではないのがこの話の面白い点で、Andersonはもう一段掘り下げて「強い確信がどうして生じるのか」を分析している。

 その説明によると、「自分には可能と思える未来(像)と、自分が心の奥底で抱いている『世界はこうあるべき』という世界観がうまく一致したときに、確信が生じる」「可能と思える未来についてのイメージ(ビジョン)がはっきりしていればいるほど、そして可能な未来の望ましさについて当人が見方が熱のこもったものであればあるほど、生じた確信は大きなものとなる」のだという(原文は次のようになっている)。

Conviction comes about when the possible future that you see aligns with a deeply held view of how the world should be. The greater clarity you have of a possible future and the more passionate your view is of the desirability of that future, the greater your conviction will be.

 つまり、新しい技術などの組み合わせで「こんなことができる」というに加えて、それができた結果として「世の中がこんな風に変えられる」というのがあれば、いわゆる「揺るぎない確信」といったものを抱ける可能性も高まる。さらにそういう強い確信(もしくは思い込み)があれば、自然とほかの人間に対する並外れた説得力も生じ、また手がける製品についても自ずと細部にまでこだわらずにはいられなくなる……ということらしい。

 これに続けて、Andersonは、JobsとMuskの「異なる点」も挙げている。それは、確信を構成する(明快な)ビジョンと情熱についてであり、Jobsの場合は「less is more」という(狭義の)デザイン哲学と、「頭がおかしくなるほど格好良く、シンプルで、すてきな技術によって一変した世界」(“a world revolutionized by insanely cool, simple, beautiful technology”)という要素が組み合わさっていたのに対し、Muskの場合は「物理の法則に合っていることなら、不可能なことはない」というのが明快なビジョンの元になっている、という。

 SpaceXで再利用可能なロケットの打ち上げ実験に3度続けて失敗した時も、あるいは「米国で新しい自動車メーカーを立ち上げて成功した試しは(ここ半世紀ほどは)ない。ましてやそれが電気自動車のメーカーとなれば……」といった懐疑的な見方が大勢を占めていたときにも、この「物理の法則に反していないのだから……」という思いが重要な支えとなっていたなどとAndersonは指摘している。

 Teslaのプロジェクトに関して、Muskが「会社を成功させられるかどうかは自信が持てなかったが、物理の法則に照らして『電気の力を利用すれば、格段に優れた自動車を作り出せる』と確信していた」というのは面白い。また、Musk本人が「TeslaについてもSpaceXについても、事業は失敗する可能性の方がはるかに高い」と認識しながら、それでも「(アイデア実現の)可能性があるのだから、それを追求しないわけにはいかない」と考えていたという点も目を引く。

 この記事の中には、Andersonの博識さを伺わせる引用も2つほど出ている。1つは、David Deutschという物理学者が「The Beginning of Infinity」という書物の中に書いた「楽観主義者」の定義で、それによると「物理の法則に反しない問題はどんなものにせよ、いずれは解決方法が見つかるとシンプルに信じられる者」が本当の楽観主義者であるという(いわゆる「明るい未来の姿」を思い描く人々ではなく)。この定義に照らしてみると、MuskはJobsよりもはるかに楽観主義的な人間、とAndersonは記している(原文は次の通り)。

In his great book, The Beginning of Infinity, physicist David Deutsch has an unusual definition of optimists. He describes them not as people with a hopeful view of the future, but rather as people who simply believe that any problem that does not contradict the laws of physics can ultimately be solved.

 もう1つは、英国の劇作家George Bernard Shawの言葉――「リーズナブル(reasonable、理にかなった)考え方をする人は、自分を周りの世界に適合させる。それに対して、アンリーズナブルな人間は周りの世界の方を自分に合わせさせようとしつこく試みる。あらゆる進歩がアンリーズナブルな人間の手で生み出されるのはそのためだ」という一節(原文は次の通り)

 George Bernard Shaw famously said, "The reasonable man adapts himself to the world; the unreasonable one persists in trying to adapt the world to himself. Therefore all progress depends on the unreasonable man."

 この定義に照らすと、JobsもMuskも「アンリーズナブルな人間の極端な例」とした上で、そのお陰でこの世界は随分と良いものになっている、とAndersonは記している。

 例え自分が「天才」(“genius”)にはなれないとしても、何かの弾みで運良くそうした気質を持ち合わせていそうな人間を見かけたら、多少の無理難題をふっかけられるのは覚悟の上で、うまく付き合ってみるのも面白いと……といったところだろうか。

文中敬称略

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