エンタープライズトレンドの読み方

根底に潜む信頼という問題--崩れゆく“合理的経済人”のモデル - (page 2)

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2013-12-03 11:30

 つまり、子供の成育環境においては、その自制心を育てることも重要であるとしても、その自制によって期待成果が得られることを、教育する大人自身が示してこそ効果が出ると言えるだろう。

実は国家が信頼されていないだけという仮説

 この信頼感の要素を加えたマシュマロテストと併せて考えると、仮に合理的経済人を複数にしても、まだ正確な経済予測は無理なのではないかと思われる。

 なぜなら、マシュマロテストの結果が、そのテストを実施する大人への信頼感により大きな影響を受けたように、合理的経済人も政策を実施する国家に対する信頼感がなければ、期待される行動を取らない可能性があるからだ。

 リーマンショック後の一連の問題の中で起きたキプロスの金融危機に際しては、自国の金融政策への不信を募らせた国民がデジタル通貨であるBitcoinを購入し、結果としてBitcoinの価格が高騰するという事象が起きた。

 Bitcoinは特定の国家の信用力の裏付けはなく、発行量はコンピュータのアルゴリズムに依存する。つまり、キプロスの国民は、政府よりもコンピュータのアルゴリズムの方がまだ信頼できると考えた訳である。こうした状況下においては、仮に合理的経済人を複数設定して政策を立案したところで、その政策が効果を発揮するとは思えない。

 つまり、合理的経済人を複数にすることで、経済政策の結果をより精緻に予測することが可能になるかもしれないが、その前提として経済政策を実施する政府が国民の信頼を得ることの方が重要だろう。

 しかし、リーマンショックが示したのは、その危機の伝播のスピードや複雑性が個々の国の制御の範囲を超え、信頼に足る金融政策を実施することが一層難しくなっているという事実である。とはいえ、複数の合理的経済人という概念のもと、どんな経済人像が議論されるのか興味深くはある。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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