米携帯通信業界の異端児
T-Mobile USAのCEO、John Legereの登場するニュース記事や動画を見かけることが今年に入って増えてきている。春先に打ち出した「脱キャリア」(“Uncarrier”)戦略が奏功し、2四半期続けて大幅な新規加入者増加(プリペイドやMVNO先も含めると100万件以上)を記録した秋以降は特にそうで、BusinessweekやNYTimesといった媒体ではLegereを特集した記事も掲載されていた(註3、4)。またBloomberg TVなどに登場して、自らの考えを語ることも少なくない。
[T-Mobile CEO Says AT&T Is More a Target Than Sprint] (今年3月下旬に“Uncarrier”戦略を発表した際のBloomberg Westのインタビュー。「これまでの各社の料金体系はあまり複雑すぎる=消費者には本当のコストが分からない」などと業界の現状を批判している。)
破産したGlobal Crossing(ファイバ網=ネットバックボーンを運営する通信会社)の立て直しで発揮した手腕を買われ、昨年9月にT-MobileのCEOに就任したJohn Legereは、「およそ電話会社のトップらしくない」人物として紹介されることが多い(そういう印象が強い)。そのルックス――長髪で、メディアに登場する際はいつもTシャツ姿(胸のところに会社の名前が大きく入ったピンク色のTシャツ)というのは、やはり米国でも「お堅い部類の商売」というイメージが強い業界ではかなり異色な存在。
さらに、競合他社のことを悪くいう「トラッシュトーク」もいとわない。Businessweek記事には、AT&Tのネットワーク――長い間「つながらない」とiPhoneユーザーなどから苦情が絶えなかった――についてLegereが人前で「Crap」と言ってのけた、などという記述がある。またNYTimesでは、「AT&TとVerizonをけなすことをほかの何よりも楽しんでいるようだ」「紙面に載せられないような言葉を使って(上位2社のことを悪くいう)」などとあり、さらに業界の現状を「上位2社による事実上の寡占状態(pseudo duopoly)」とし、Sprintについては「言及する価値さえないと考えている」などと書かれている。
ほかにも、米携帯通信業界の現状、すなわち上位2社の姿勢について「傲慢で、愚かで、しかも動きが遅い」と語ったり、彼らとT-Mobileとの違いについて「われわれはユーザーをつなぎとめようと努力しなくてはならないが、連中(上位2社)はいったんあなたを罠にはめたら、その後はすっかりあなたのことを忘れてしまう(契約期間がまもなく終了という時になるまで放っておく)」と自分でツイートしたりしたことなども紹介されている。
そんなLegereの下で、T-Mobileは今年に入って、2年契約制の廃止、端末購入代金の打ち切りと長期分割払いの導入、国際ローミング料金の廃止、端末買い換えを容易にする新制度「“Jump” program」の導入など、新しい施策を矢継ぎ早に繰り出してきている。また長年の懸案だったiPhoneの取り扱いも今年3月にようやく開始し、さらに4社の中で最もスタートが遅かったLTE網の構築も当初の計画を上回るスピードで進んでおり、10月にはカバー人口が2億人を突破して、Sprintのそれを上回った、などとも伝えられていた。
こうした複数の要因が組み合わさって、T-Mobileでは2四半期連続で加入者が他社を上回るペースで増加(註5)。FierceWirelessによると、(一番重要な)ポストペイド加入者の増加件数は、第2四半期に68万5000件、第3四半期に64万3000件を記録。またBusinessweekでは第2四半期の各社の結果について、T-Mobile 68万5000件に対し、Verizonが47万2000件、AT&Tが15万3000件(の増加)と記されている(ただし、Verizonについてはすでに人から契約端末数に指標を変えているので、この47万2000件という数字がどこから出てきたものかは不明)。またSprintは旧Nextelサービスの停止などもあり、依然としてかなりの加入者減少が続いている(註6)。