価格破壊と消費者本位で攻勢に転じる
もう1つBusinessweekの記事で目を引くのは、各社のARPU(顧客ごとの月額売上)の比較だ。フィーチャーフォンも含む過去数年間の平均とかなりざっくりしたものだが、Verizon 54ドル、AT&T 47ドル、Sprint 49ドルに対し、T-Mobileが46ドル(2013年の第1四半期まで)。そして、T-Mobileが「脱キャリア」戦略と新しい料金体系を打ち出してからは、これが40ドル以下まで下がってきているという。失うものが少ないものだからこそ可能な「捨て身の価格破壊」と言えるかもしれない。
[T-Mobile CEO Says Carriers Overcharging for Data] (今年10月のBloomberg Westで放映されたインタビュー。「携帯電話会社は高いデータ料金(国際ローミング料金)を取り過ぎ」という見出し(と発言)が目を引く)
ユーザーの使うデータ通信量が増えれば、それだけ売り上げも増える従量課金制への移行をほぼ済ませた上位2社とは異なり、SprintもT-Mobileもいまだに「使い放題」の料金プランを維持している。仮に両社が一緒になるとすると、上位2社に比べても潤沢な両社の周波数帯を利用しながら、この「使い放題」を売り物にさらなる低価格化、すなわち価格破壊で新規加入者獲得……という戦略がさらに現実味を帯びることになるようにも思える(註7)。
また、スマートフォンメーカー各社に対する影響力がこれまで以上に高まることも当然予想される(特に、TD-LTE端末に関するもの)。
さらに、もう1つ見逃せない「変数」は、先週2015年半ばまでの延期が決まった「600MHz帯オークション」。これが2007年にあった700MHz帯オークション以来の大規模なものになる予定で、VerizonとAT&Tがほぼ独占する形で終わった前回の教訓を踏まえて、今度は両社が入札できる周波数帯に制限をかけようか、などという話も規制当局関係者の間などで出ているという。
別の角度から推測すると、ソフトバンク/Sprintとしては、FCCによる大型オークションの先送り発表を受けて、(1年半先までは待てないと)T-Mobileの買収という代替プランを改めて引っ張り出そうとしている――その準備として(WSJに話をリークして)観測気球を上げたのかもしれない。
いずれにしても、上位2社の力が強く、そのせいで欧州などに比べるとかなり料金の割高な状況が続いている米国の携帯通信市場(註8)では、少なくない数のユーザーが「価格破壊者」の台頭を歓迎し始めているようにも思える(通信の質さえある程度担保されれるようになれば、という条件付きだろうが)。
日本市場で過去5~6年の間に起こったのと同じような展開が、これから米国でも再現されるのかどうか……。世界各地で業界の再編統合が進む中、このソフトバンク/Sprintの米国での動きは、特に大きな注目を集めることになるのかもしれない。