このままではBYODは不透明
一方、スマートデバイスの進化により2012年ごろからBYOD(Bring Your Own Device)に注目が集まり、ビジネスの現場でBYODを許可することを支援するための試みや、さまざまな製品やサービスが世に出始めた。
IDCでは、国内のBYODと後述する「シャドーIT」のユーザー数は、2011年の192万人から2016年に1265万人まで拡大すると予測する。ここで問題になるのは、このシャドーITだ。IDCは、企業や組織がポリシーに基づき、従業員の私物のモバイルデバイスを業務で利用することを認めている状態を、BYODであるとしている。
対するシャドーITとは「企業が業務において、私物端末の使用を許可しない状況で、従業員が使用するケース」と「BYOD利用規定を定めないで使用するケース」ということを意味する。ビジネスでIT機器を使用する場合、確保されていなければならないセキュリティがシャドーITには欠けている。IDCによれば、シャドーITの割合はBYODの約6割から8割を占める。BYODが本格活用されるには、シャドーITを大きく低減化されなければならないだろう。この課題の解決はまだ時間がかかりりそうだ。
エンタープライズでの活用に動き
見てきた通りスマートデバイスはすでに多様な用途で、ビジネス向け機器として活用され始めているが、今後は、エンタープライズ領域での本格利用が期待される。統合基幹業務システム(ERP)などはその最たるものといえよう。
ERPパッケージベンダーのSAPは、モバイルを強く意識している。「モバイルデバイスへの対応を強化し2015年頃にはSAPユーザー数を10億人にまで伸ばしたい」――独SAPの幹部は2011年時点で、このように話していた。最近では、SAPのモバイルアプリ開発基盤の「SAP Mobile Platform」(旧Sybase Unwired Platform)やモバイルデバイス管理(MDM)システム「SAP Afaria」などを組み合わせた営業支援システムの活用事例がすでにあるという。
インドのある大手企業では、このシステムにより営業担当者1700人がAndroidの7インチタブレットを用い、ディーラー情報やクレジットなどの与信情報や顧客からの意見や要望の確認、在庫確認、受発注などの営業活動についてすべてのデータにアクセスできるようになった。同社ではこの端末に対応する営業支援(SFA)系アプリケーションを開発している。これらの情報をリアルタイムで参照できる背景には、バックエンドにある「SAP ERP」と顧客情報管理システム(CRM)に、これらのアプリケーションからアクセスする仕組みがあるという。
エンタープライズ向けのモバイルアプリ開発基盤であるMobile Platformは、独SAPが2010年に買収した米Sybase由来の製品だ。件のSAP幹部は「当社がSybaseを統合したのは、ERPなどのビジネスアプリケーションを小型端末にもより一層適用していきたいと考えたからだ」と話していた。
国内でERPやSFAといった分野にモバイルが積極的に活用されるようになるのは、まだこれからだろうが、ITベンダー各社は続々と陣形を構築しようとしている。
米IBMは「MobileFirst」戦略を打ち出し、モバイルアプリ開発のための製品群投入などに着手。日本ヒューレット・パッカードは、国内向けに「Enterprise Cloud Services - Mobility (ECS-Mobility) 」を発表した。クラウドベースを軸に各種モバイル端末に企業アプリケーションやセキュアなアクセスを提供するとしている。
このほか、国内外を問わず大手ITベンダーは、これからも事実上の“モバイルファースト”施策へ大きく舵を切っていくのではないか。2014年には、主要各社の基本戦略がさらに明確化するだろう。エンタープライズ向けの十分な製品やサービスが用意されてこそ、モバイルコンピューティング時代は本物になる。
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