2013年12月の日経新聞の「私の履歴書」は、マーケティングの大家Philip Kotler氏である。Kotler氏のすごいところは「マーケティング」の概念を単に売り上げや収益のための学問という狭い領域から解放し、ついには社会問題を解決するための学問へと発展させたことである。
Kotler氏がいなければ、マーケティングという学問の重要性はもっと低いものであっただろう。そして、Kotler氏に触発されて思うのは、「金融サービス」も同様にその概念を広げることができるのではないかということだ。
2014年1月から始まるNISA(少額額投資非課税制度)により、1600兆円に上る個人の金融資産は、その過半を占める現預金から株式や投資信託などのリスク資産へ動くと言われている。しかし、これは税制優遇という仕掛けによって突き動かされるのであって、個々人が何か投資したいものがあって動き出すわけではない。
12月20日の金融審議会で投資型クラウドファンディングの枠組みが報告され、2014年にも金融商品取引法が改正される見込みとなった。これによって、個人投資家がベンチャー企業へ小口の投資を行う枠組みが整うこととなる。
個人投資家は未公開株への投資が行いやすくなり、ベンチャー企業はより少ない負担で資金調達を行うことができる。アベノミクスにより契機が回復しても、中小企業向け融資がなかなか増えないことが課題とされていたが、投資型クラウドファンディングはその一部を解消することが期待される。
これまでにも、PtoPレンディングとしてスタートしたAQUSHなどが、その融資先を個人から中小企業へと拡大し、個人が中小企業への資金供給を行う仕組みへと発展した。また、クラウドファンディングの領域においても既に多くの実績が出ている。
ミュージックセキュリティーズは多くの地域金融機関との提携を実現し、個人の資金を地域の中小企業支援につなげている。2013年に立ち上がった日本クラウド証券は、個人が新興国のマイクロファイナンスへ投資する枠組みを作り上げた。
つまり、制度的に個人のお金は投資へと流れていこうとしているが、個人は単にリスクとリターンによる判断軸だけではなく、自分のお金をどのような目的でどのような企業や枠組みに投じていくのかを選択できる。
金融サービスのあり方というのも、単に金融資産を増やそうということではなく、金融資産を活用してどのように社会へポジティブなインパクトをもたらしていくかという発想があってもいいだろう。それは税制優遇のみによって突き動かされるのではなく、自らの意志で動き出すお金だ。
金融サービスというと「貯める」「借りる」「使う」といったことが中心的な機能であるようにとらえられるが、これからは個々人が金融を通じて、どう社会の変化に貢献できるかということが前面に出てきてもいいのではないかと思う。せっかく動き出そうとする1600兆円に個々人の意志を反映させることで、世の中に大きなインパクトを与えられる、そんな“プラットフォーム”こそが金融サービスではないだろうか。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。