(1)無表示の「ネイティブ広告」ではないか?
2013年の特に秋口から、米メディアに関連して「ネイティブ広告」(“native advertising”)という言葉を目にすることが増えてきている。日本で言う「記事広告」「タイアップ広告」に相当するものだが、いまでも編集と広告との区分――「政教分離」についてわりとやかましい(=気を配っている)ように見えるの大手媒体では、これまであまり使われていなかった手法らしい。
ところが、紙媒体側の広告売り上げが減り、ウェブ側でも従来売り上げの柱となっていたディスプレイ広告の単価が年々下がり続け……といった流れの中で、このネイティブ広告に対する期待が高まっている。12月の初めには、米公正取引委員会(FTC)で業界関係者を集めたネイティブ広告に関するワークショップも開かれて、「記事のように見せかけた(紛らわしい)広告は控えましょう」「明示をしっかりしなさい」というFTCのお達しも出されていたほどだ。
・Arguments Fly During FTC Workshop on Native Advertising - AdAge
・As Online Ads Look More Like News Articles, F.T.C. Warns Against Deception - NYTimes
もちろん、記事広告自体が禁じられているわけではなく、「Sponsored Article」などと読者にはっきり区別がつく形で掲載すれば問題なし、とされている。実際にNYTimesでも、先週行った8年ぶりのウェブサイト大規模刷新にあわせて、記事広告の掲載を始めたことが一部で話題になっていた(第1弾はDellのもの)。
・Can the government become entrepreneurial? - NYTimes (ページ上部に「PAID FOR AND POSTED BY DELL」の表記がある)
・With Redesign, NYTimes.com Unveils Native Ad Platform - AdWeek
なお、FTCのワークショップには「Blurred Lines: Advertising or Content」 という名前がつけられていたという。Robin Thickeの大ヒット曲『Blurred Lines』(シングルチャートで年間売り上げ1位)にひっかけたものだろうが、いずれにせよ「広告とコンテンツとの境界線が曖昧になる」ことに対する危惧、あるいは反発の声がそれほど強い、ということの表れかもしれない。
[Robin Thicke - Blurred Lines ft. T.I., Pharrell]今回の騒動を生じさせたNYTimesのツイート引用広告を、そんなオンラインでのネイティブ広告にさらにひとひねり加えたもの、と見ることもできる。ただし、CBS FilmsはNYTimesに広告枠の代金しか支払っておらず、ツイートの主であるScottにも報酬はまったく渡っていない(記事広告の作成を依頼したわけでもないので)。だから「ネイティブ広告」にはあたらず、当然普通の記事広告のように「明示の有無が云々」と突っ込まれる謂われもない……。この広告を出そうと考えたCBS Filmsのプロデューサーはかなりの切れ者かもしれない。