フランスがグローバリゼーションに抵抗している。大義名分はフランス文化の保護である。しかし、結果的には、インターネットのもたらすさまざまなメリットを消費者が享受することを妨げる。これは、本当にフランス文化の振興策となるのであろうか?
テクノロジ企業を狙う文化税
フランスには「文化税」なるものがあって、フランス文化振興の名目で映像関連のビジネスを行っている企業、例えば放送局や映画館などに課されていた。BusinessWeek誌によると、この税金がYouTubeなどの動画サイトの運営会社、つまりはGoogleにも課されるべきだという議論がある。
また、TechCrunchによれば、通称「反Amazon法」と呼ばれる法律がまもなくフランス議会を通過する見込みだという。これは、オンライン書店が書籍の送料を無料にすることを禁止するもので、もともと書籍の割引が5%までしか認められていないフランスにおいて、オンライン書店、つまりAmazon.comがその価格メリットを出すことが難しくなる。
BusinessWeek誌の記事によると、「スマートフォン税」といったようなものも議論されており、映画や音楽などのコンテンツにアクセスできるあらゆるデバイスに課税して、それを文化振興の原資にしようと目論んでいるらしい。となると、今後出てくるであろう、あらゆるウェアラブルデバイスの類もフランスだと全部税金が掛かってくることになる。
文化を守ろうとする文化
一般的にグローバリゼーションに抗う理由は文化の保護のみではない。例えば、自国の産業や政治体制を維持するために、インターネットを検閲したり、あるいはネット系のサービスの利用を制限したりする国もある。フランスも、課税のターゲットなる企業がGoogleやAmazonなどの米系企業であることから、自国の産業を守ることが目的なのかと思われるが、フランスなだけに一概にそうとも言い切れない。
フランスは、自国のラジオやテレビなどにおいて、フランス語コンテンツの比率を一定以上とすることを定めるなど、従来からフランス語及びフランス文化を守ろうとする姿勢が非常に強い。そのため、一見米国のネット系企業から自国産業を守ろうとしているだけのようにも見えるが、文化擁護も単なる言い訳とは思われない。
多様性こそ文化の起爆剤
しかし、フランス文化の繁栄は、必ずしも自国文化の擁護によって築かれたものではない。美術の世界で言えば、各国からパリへアーティストたちを引き付けたことでフランス文化が花開いたと言える。ピカソはスペイン、モディリアーニはイタリア、シャガールはロシア、ゴッホはオランダ、藤田嗣治は日本といったように。これが第二次世界大戦を機に、戦火を逃れてアーティストたちがニューヨークへ移る中で、文化の中心がアメリカへ移ることとなる。
フランスと言えば、日本のオタク文化が人気を博している国として有名である。実は、その経緯はテレビアニメの抑圧にあったという。
フランスでは、日本のテレビアニメが70年代から80年代に掛けて人気を博していたのだが、その中に含まれる暴力的表現が問題視されたことと、フランス文化擁護の観点から、90年代には日本アニメの放送時間が大幅に削減されてしまった。そして、その抑圧がきっかけとなって、アニメの原作であるマンガの輸入が始まり、これがオタク文化の隆盛の下地となったと言う(ファミ通.com)。
フランスが文化を守ろうとして導入してきた文化税、そしてこれからの導入が検討されている反Amazon法やスマートフォン税であるが、オタク文化隆盛の経緯を見る限り、フランス人が自国文化のみに満足することはないだろう。
かつて、さまざまな国から才能を引き付けて、その文化を築いてきた記憶は、その国民性の中に生きているのではないだろうか。国の政策がいかに自国文化擁護に向かおうとも、新しい文化への関心が失われないところこそが、まさにフランス文化の強みであるに違いない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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