三国大洋のスクラップブック

アルゴリズムとセンサと--グーグルのNest買収をめぐって - (page 2)

三国大洋

2014-01-17 13:11

アルゴリズムとセンサと

 まずは少数派の見方から。

 今回の買収については、Tony Fadell(註1)をはじめとしてNestのメンバーにApple出身者が目立つことから、「Googleがコンシューマ向けハードウェア開発のノウハウを手に入れたいと考えた」といった見方が一部にある。また、GoogleがAndroidですでにやっている「Google Now」のような予知型情報提供を「Nestのデバイスを利用しながら、家庭の中でもやれたら面白いと考えた」といった推測をしているところもある(その延長線上で、状況に応じた広告通知といった可能性を挙げている者もいる)。

 だが、いずれの推測も「まったくの見当違い」とは言えないと感じられるものの、将来的な含みとしては正直あまり面白いとらえ方とは思えない(……ただしこれは、ふだんからGoogleの製品やサービスはいろいろ愛用しているけれど、例えば家人のiPadを使ってThe New York TimesのNBA欄を見ている時に女性モノの洋服やアクセサリの広告を表示するような間抜けな「行動ターゲティング広告」に辟易(へきえき)している人間のうがった見方かもしれない)。

 そうしたとらえ方にくらべて、Nest製品の目に見えにくい部分――サーモスタットの自動学習機能(ソフトウェアのアルゴリズム)の部分など着目している見方は、はるかに面白い感じがする。

 上記のGigaOM記事がその一例だが、この中には「Yoky Matsuoka」という女性研究者の名前が出てくる。2007年にマッカーサー財団からいわゆる「Genius Award」を与えられたロボット工学(robotics)/人工知能の専門家で、Nest立ち上げ時からのメンバー。それ以前には「Google X」ラボにも在籍……など実に華々しい経歴の持ち主らしい。

Yoky Matsuoka: Your House Is More Energy Smart Than You from The Atlantic on FORA.tv
[Yoky Matsuoka: Your House Is More Energy Smart Than You - Fora.tv]

 Steven Levyは、2011年10月に書いたNestの立ち上げならびにLearning Thermostatの発表に関する記事の中で、このYoky Matsuokaなる女性研究者と彼女が書いたアルゴリズムについての話に結構なスペースを割いている。その中には、やはり彼女が関わったUI部分について「トヨタ・プリウスのダッシュボードを参考にしてつくった」などの記述も見られる。また、Google X(同社の研究部門)を立ち上げたSebastian Thrun(註2)がNestのアドバイザーを買って出ていたという一節もある。Thrunが、Google Xで同僚だったMatsuokaをNestのプロジェクトに「最適な人物」としてFadellらに紹介したらしい。

 この記事の中にはもう1人日本人と思われるShige Honjoという人物の名前も出てくる。やはりApple出身者――FadellのiPod開発チームのメンバーだったそうで、Nestの立ち上げに際して共同創業者のMatt Rogersが真っ先に勧誘した人材の一人、といった記述がある。なお買収発表の翌日(14日)には、このShige Honjoの経営幹部への昇格を伝える発表も出されていた。

 Tony Fadellは、NestがGoogleの傘下に入ることを発表したブログに「Welcome home」というタイトルを付けている。その中味を読んでも、なぜそういうフレーズを選んだのかというところの真意がいま1つつかみづらいのだけれど、少なくともNestのアルゴリズムについては「(Googleへの)里帰り」と言えるかもしれない。

 Googleとしては、Nestから2つのものを手に入れることになると思われる。1つは前述のソフトウェア(アルゴリズム)で、もう1つは家庭内のいろいろなものにセンサを埋め込んでデータを集める方法、ということになるかもしれない。それで集めたデータをどんな分野でどう使っていくかは、これからじっくり考える、といったところだろうか(ただし、それでは「どうして32億ドルの評価額がついたの」という疑問の答えにはならないが)。

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