最後に。
Tony Fadellは今回の発表後に、結構な数の媒体のインタビューに答えていた。そして、Googleへの売却について「事業拡大のスピードアップが主眼」「資金調達だけならいくらでもお金の出し手がいたのだが、事業のスケールアップを考えてGoogleの力を借りることにした」「できることなら次の製品開発に集中したいのに、事業のスケールアップに関わる諸々に9割くらいの時間をとられてしまっている現状をなんとかしたいと思った」(要は、Googleに面倒なことをまかせたいということか)などと説明していた。下記のGigaOMやWSJの記事の中にはそれぞれそういう説明が見られる。
- Nest’s CEO Tony Fadell explains why he teamed up with Google: it’s about infrastructure - GigaOM
- In Interview, Nest Founder Extols Google Support - WSJ
もう1つ、スケールアップという点では、Googleが一番得意とするクラウドの部分(大規模計算処理)も当然あてにしているもとの思われる(NYTimesによると、Nestではこの部分をAmazon Web Serviceを使ってやっているらしい)
またTony Fadelllは、GigaOMのインタビューの中で、特に海外展開の話を強調していて、「世界(のあり方)を変えるためには、当然北米以外にも事業を広げていかなくてはならないが、外国の市場に参入するとなると、法律関連(規制)や物流関連、ローカライズ、カスタマーサポートなど、さまざまな事柄について国ごとに対応しなくてはならず、相当な時間がかかる(それで、そういう部分はGoogleに助けてもらうことにした」などと述べている。
この記事から察すると、Tony Fadellの目はいまのところ欧州に向いているようだが、過去には「いずれ米国外にも出て行くよ」などと漏らしていたJack DorseyのSquareが、一年も経たないうちに(海外進出第一弾として)日本に進出、といった例もある。儲からない、テレビなどの事業から足を洗い、「スマートホーム」などと呼ばれる新分野に活路を見い出そうとしている業界関係者の中には、今回のNestのニュースを見聞きして「ちょっと嫌な感じ」がした人がいたかもしれない。また、Tony Fadellは昨年11月に「開発を視野に入れている新製品のアイデアが少なくとも10個(アイテム)はある」と発言していたから、今後はさらに多くの分野でそういう感じを抱く人が出てきても不思議はなさそうだ。
註1 Tony Fadell Nest共同創業者・CEO。General Magic、Phillips、Appleを経て、2010年にNestを創業。Apple時代の「iPod開発責任者」あるいは「iPodの生みの親」といった肩書きがついてまわる人物。またApple時代の、iPhone開発をめぐるScott Forstallとの激しい確執は広く知られるところ。さらに最近では「Jony Iveとの確執から、アップルを事実上追われた」といった話も出ている。詳しくは次の書籍や記事などを参照されたし。
・Why Didn't Apple Buy Nest? A Feud Involving Jony Ive Could Have Something To Do With It
註2 Sebastian Thrun AI研究者、Google Xでは自動走行車開発プロジェクト責任者を務める。現在は自ら立ち上げたMOOCのUdacityを運営。
註3 Learning Thermostatを試してみたGigaOMのKevin C. Tofelは、「Nestのサーモスタットはスタンドアローンで、自宅に導入しているホーム・オートメーション・サーバーと情報のやりとりができない。それで、照明やウェブカム、ドアの制御に使っているアプリからでは、Nestをコントロールできない。それが難点」などと書いている。
(文中敬称略)
Keep up with ZDNet Japan
ZDNet JapanはFacebook、Twitter、RSS、メールマガジンでも情報を配信しています。