今回はこれまであまり取り上げたことのなかった米オンラインメディア業界(媒体)の話をしてみる。
今週はじめ(米国では26日の日曜日)に、Ezra Kleinという元Washington Post(WaPo)の有力ブロガーが、新たに自分たちのブランドのオンライン媒体を始めると発表し、一部の業界関係者の間で話題になっていた(メディアのビジネスで飯を食う人間が同業者の話が大好き、というのは、洋の東西を問わないらしい)。
WaPoの中にある政治系ブログ「Wonkblog」を運営してきたKleinの進退については、年明け前後から注目が集まっていたようで、NYTimesやGigaOMといった他の媒体では「やっぱりなぁ」といった書かれ方の記事が掲載されている。
Kleinが新しいパートナー兼パトロンに選んだのは、Vox Mediaという会社。このVoxは、元々「SBNation」というスポーツ関連ブログのネットワークをつくって事業の基礎を固め、その後「The Verge」というテクノロジ系ブログの立ち上げ、運営の支援などを通じて、有力な新興メディア関連企業の1つとなってきているところだ。
なお、3年ほど前にEngadgetで編集長を務めていたJoshua Topolskyなどのメンバー8人が、親会社AOL内部でのゴタゴタに嫌気がさし、同媒体を飛び出してVox Mediaの最高経営責任者(CEO)、Jim Bankoff(やはり元AOL幹部)のところに駆け込んだ……というのは割とよく知られた話だったりする。
今回のEzra Kleinをめぐる一件については、「Wonkblog」で評判を築いたKlein――まだ29歳というから大したもの――が、新しく自分たちの媒体立ち上げを構想し、「WaPoとのダブルネームでどうか」と上層部に諮ったものの、WaPo発行人(経営責任者)のKatharine Weymouth――Watergate事件の暴露で編集チームをサポートしたことなどで有名な社主、Katharine Grahamの孫娘)や現在のオーナーであるAmazonのJeff Bezosから「ダメ出しされた」といったものらしい。
もっとも、Kleinの企画が「スタッフ34人体制」「運営コストが年間1000万ドル以上(ドルで8ケタ)」など、相当に法外な内容のものだったという話もあり、あらかじめ新媒体立ち上げのメドをつけていたKleinが、わざと拒否されるような条件をWaPoにふっかけたという可能性も十分考えられる。
また、Vox Mediaが秋口から新規の資金調達に動いていたことなども、そうした可能性を示唆する傍証といえるかもしれない。ただ、このあたりの細かな点はたいして重要でないのでひとまず脇に置くこととする。
このKlein移籍のニュースを目にして面白いなと感じたのは、この話に次の2つの点が含まれていると思えたからである。
1.技術開発力の重要性 2.個人/小規模チームのブランド力増大
この2つの点についてそれぞれ少し説明する。