再生現場でのシーン--その1
A社の高田(仮名)経営企画部長は、悩んでいました。
「今月の売り上げも既存店前期比90%、利益は減少し続けている。銀行からのプレッシャーも厳しくなっているのに、オーナーは不況こそ攻め時とばかりに、新商品、新サービスを出し続け赤字幅を大きくしている。明らかにオーナーの感性は時代とずれ始めているのに……誰も鈴をつけられない、むしろヨイショしている部長までいる。このままいったら、新規出店の資金確保どころか、来年には資金ショートだ…」

A社は、その後事業再生アドバイザーを活用し、まずは資金繰りを確保すべく、不動産、株式、ゴルフ会員権などの換金可能資産はすべて売却、親しい取引先へは支払延期を依頼、それでも足りない部分は経営陣からの私財提供と借り入れで倒産の危機をなんとか乗り切りました。
この時期は、高田経営企画部長をはじめとする幹部社員の心労は計り知れないものがあったと思いますが、一方で、この経験は会社に「強い危機感」を根付かせることができたのではないかと筆者は考えています。バネは強く引っ張れば、その反動も大きいように、この時に危機感を強く醸成したことがその後の過去最高益につながった大きな要因だと考えます。
危機的な状況にもかかわらず、運転手つきのお車にこだわるような経営者もいます。再生に向けた最初の一歩を踏み出せるかは、どれだけ現実を厳しく捉え、それをテコにしていかに危機感を醸成できるで決まります。
業績が悪化している企業には、分かっちゃいるけどやめられない事業や取引が存在します。再生フェーズは、こうした過去から蓄積した膿を取り除く絶好の機会です。ただ、多くの企業では、うっすらと分かっていても、どこが本当の膿なのか、赤字なのかよく把握していないことが少なくありません。