Appleの最高経営責任者(CEO)、Tim Cookのインタビュー記事がWSJで公開されて注目を集めていた。一方、米国時間2月7日に、Googleが時価総額でExxon Mobileを一時的に抜き、Appleに続く2位になった、という話もニュースになっていた。今回はこの2つの話題を目にして感じたことなどを記す。
2月14日までのAppleの株価推移
2月14日までのGoogleの株価推移
Steve Ballmerを想起させたTim Cookの「投資家向けメッセージ」
WSJに掲載された『Apple’s Tim Cook on Plans for Cash and Emerging Markets』というインタビューは、今月末にある株主総会を視野に入れたもの。1月のCNBC登場――China MobileでのiPhone 取り扱い開始時に合わせて行ったCNBCとのインタビュー――に続く媒体への登場ということになるが、やはりまだめずらしいということで、比較的多くの媒体で取り上げられていた。またAppleがここにきて140億ドルもの自社株買いを行ったというニュースもこれに関連して話題になっていた。
Cookの話の内容は、日頃からAppleの動きを気にしている(気になってしかたがない)人間の目にはかなり物足りない感じのするもの。「売り上げは2013年1年間だけで140億~150億ドルも増えたけれど、もともとの分母が大きいから増加率(%)は少なく見えてしまう」「中国(本土、香港、台湾)の年間売上は290億~300億ドルとなったが、これだけのビジネスをしている米国企業はほかにないだろう」、稼ぎ頭のiPhoneについても「米国、カナダ、日本でシェアがナンバーワン、西欧と東欧ではそれぞれナンバーツー、(日本を除く)アジアでもナンバーツー」――ただし、Cookは「本当のスマートフォンと呼べるものの中では……」というただし書きをつけてそう言っている。Samsung「Galaxy」とiPhoneの2強になっていることを知る者には「何を今さら」な話――など、いずれも事実には違いないのだろうが、どれも「過去のこと」である。
一方、今後のことについては従来通り何も具体的なことを口にしていない。「ガラクタは作らない。他人の設計したものにAppleのロゴをつけて売るようなマネはしない」というだけで、「より大きな画面のiPhoneを出したりしないのか」とカマをかけられても「出すかもしれないし、出さないかもしれない」などと、いつも通りお茶を濁している。
「自分の会社の実情を投資家にしっかり(再)認識してもらう」という目的のインタビューであり、また「経営がうまくいっている会社のトップだから、余計なことは口にしない」というのも理解できる。だが、それにしてもつまらない……つまらない理由の筆頭にくるのは、Appleに対して「イノベーションを実現するテクノロジ企業」を期待する気持ちがこちらにまだ残っているからだろうか。
これからAppleがどちらに向かおうとしているのか、そのことがちっとも見えてこない。ただ見えてこないだけでなく、もう2年以上もそうした状況が続いている。最近のCookの優等生的な発言にいつもがっかりさせられるのは、そんなところに原因があるのかもしれない(GoogleやAndroidを標的に、トラッシュトークしたとかいったことはどうでもいい)。
また、このインタビュー記事を読んでいて、MicrosoftのSteve Ballmerが登場していたBusinessweekの特集記事のことを思い出してしまった。2012年初めに出た『Steve Ballmer Reboots』いうタイトルのこの記事には、「過去10年間でMicrosoftの年間売上高は250億ドルから700億ドルに、利益は215%増の230億ドルまでそれぞれ増加」「Ballmer在任期間中の利益増加率は年率16.4%で、GEのJack Welch (11.2%)やIBMのLouis Gerstner(2%)のそれを上回る」などと書かれている。
ついでに言うと、「Ballmerが経営している限り、Microsoftでは何も変わらないと思う」というSteve Jobsの台詞――JobsがWalter Isaacson(公認伝記筆者)に語ったものも引用されている。
さて。そういう人の目には、「長期的にAppleの利益になると思えれば、10億ドル($1 billion、10桁の金額)以上の企業買収もやぶさかでない(資金は使い切れないほどある)。けれど、実際にはそんな候補となるところは1つもない」というCookの考え――GoogleがNestを買収したことについて訊ねられてのコメント――も、たとえ事実にせよ、言い訳のようにしか聞こえない。
Appleが「健康、医療分野の人材を積極的に探している」とか、あるいは「数億台ものiPhone(の画面)に使えるほどの量のサファイアを確保した」とか、相変わらずいろんあ情報が出てきている。けれど、そうしたピース(コマ)を組み合わせてどんな絵がつくり出されようとしているのかは未だに見えない。また、そうした全体像をおぼろげにも示されるまでは、あるいは少なくともなにかワクワクさせられるようなものが待っているという感じが外部に伝わるまでは、Apple株価が大きく上昇することもないか、という気もしている。