今回のCEO選びの過程で、「やはり技術の分かる人でないと……(社内のエンジニアなどがついてこない)」といった話を目にした覚えもある。またGatesもそうした点を踏まえて、エンジニア出身のNadellaを推したとも考えられる。
ただ、この「やはり技術の分かる人でないと……」というのは、たとえば開発者に「自分たちと同じ言葉を喋る」と評価してもらえるといったレベルよりも、もう少し深いところの話ではないか……。そんなことを感じたのは、GigaOMでデータ関連の話題をカバーしているDerrick Harrisの記事を読んでのことだった。
Bing関連の機械学習(マシンラーニング)の取り組みなども過去に取材していたHarrisは、「AmazonのKindle部門がマシンラーニング分野の科学者を募集している」あるいは「Amazon Web Servicesのゲームサービスチームがビッグデータの分かるソフトウェアエンジニアを募集している」ようないまの状況で、「Ford CEOのAlan Mulallyなど連れてきてもしかたなかろう」「GMに勝った実績が、そのままGoogle相手に攻勢に転じる準備とはならない」などと書いている。Mulallyは、派閥争いが激しかったFordの社内を上手にまとめて経営を立て直したとされ、2013年12月半ばまでMicrosoft次期CEOの有力候補として名前が挙がっていた人物。
「アイスホッケーのパックが向かっているほうへ滑っていく(いまあるところへではなく)」というWayne Gretzkyの言葉――Steve Jobsが引用したとして有名になった――を思い出すと、NadellaとGatesは当然、社会全体の将来像といったものに目星をつけておかなくてはならない。それが具体的にどんなものになるかは想像もつかないが、たとえばさまざまな種類のセンサ――すでに「センサの塊」のようなスマートフォンだけでなく、「ウェアラブル」やあるいは「IoT(Internet of Things)」でくくられる類いのこれからものも含む――でキャッチされた多岐にわたる膨大なデータが、ネットに吸い上げられ、クラウドを通過し、その過程で加工処理されて、別のデバイスに引き継がれる、あるいは(人間用に)出力される……といった姿もぼんやりと浮かんでくる。
「Microsoftの未来は、Windows Azure、Office、Bing、Windows Phone、Xboxといった個別の製品・サービスの成否にかかっているのではない。そうしたものすべてがうまく連携して機能するかどうかにかかっているのだ」などともDerrick Harrisは書いている。かなり漠然としているが、スケールの大きな話であることくらいは感じ取れる。そして、コンシューマー向けと企業向けの両方である程度大きな事業(と存在感)を維持しているMicrosoftにとっても、そうした姿になってこそ本当の強みが生かされることになるのだろう。
Harrisのような立場の人間から見ると、Microsoftの主な競合相手は、Amazon、Google、それにFacebookなど、いずれもクラウドーデータセンター網の構築や運営にノウハウを持ち、そこでのマシンラーニング関連の取り組みなどまで進めている企業となるらしい。また、一部の投資家などから要求が出ているとされるオンライン事業(Bingを含む)の切り離しなどは言語道断、ということのようだ。
開発者やパートナー、投資家が思わず身を乗り出す……といった魅力のある絵(将来像)を描き、そこに至る道筋を説得力ある形で示すのは、相当大変なことだろう。しかし、「新しいことを学ぶのが好き」と強調する技術者出身のCEO就任と、Gatesの実質的な現場復帰とを合わせて考えると、そのくらいのことを思わず期待したくなってしまう。
(文中敬称略)
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