アメリカスカップ奇跡の逆転劇の裏にIoT
2013年9月25日、世界的なヨットレース「アメリカスカップ」はOracle Team USAが1勝8敗と圧倒的に不利な状態から大逆転で勝利を手に入れた。この奇跡的な逆転劇の裏には、いま注目のキーワード「Internet of Things(IoT)」と「ビッグデータ」があった。1勝8敗と窮地に立たされたOracle Team USAは、いったい何を変えたのか。
「それまでの戦いでは、対戦相手のエミレーツチームニュージーランド艇のほうが巡航速度に乗るのが速く、先行されそのまま逃げ切られるレース展開が続いていました。とはいえ、Oracle Team USA艇のほうが、論理的には先に巡航速度に乗れるとの分析結果があった。ならば、あとはそれを実践するだけだったのです」
日本オラクルの執行役員で、Fusion Middleware事業統括本部長の桐生卓氏
日本オラクルの執行役員で、Fusion Middleware事業統括本部長の桐生卓氏は、今スポーツのやり方をIoTが変えていると言う。その典型的な事例の1つが、アメリカスカップの逆転劇だった。論理的に速いのならば、実践すれば勝てるはず。
機械なら設定やプログラミングかもしれないが、ヨットレースで実践するのは人間のクルー。彼らのパフォーマンスを、最大限に引き出せなければ論理を証明できない。
クルーの能力を引き出すのに利用したのがIoTのテクノロジだ。Oracle Team USAの船やクルーには、300を超えるセンサが取り付けられていた。そこから情報を収集し、そのデータをリアルタイムに監視し、結果をフィードバックして論理を実証して見せたのだ。
「クルーのウェアにもセンサが付いていて、心拍数、船の上での移動距離や速度なども監視していました。例えば、あるクルーが疲労を蓄積したことで、通常船の端から端まで移動するためにかかる秒数よりも多くの時間がかかると分かれば、適宜その状況に合わせた対策をしたのです」と桐生氏。
センサから集められたさまざまなデータは、レースごとに数ギガバイトの容量になる。それらに加え、さまざまな環境要因データなどを組み合わせ、レース後には得られたビッグデータを「Oracle Exadata」で解析した。解析結果を次レースの戦術に反映させ、さらに強いチームへと成長していったのだ。これらが功を奏し、あの逆転劇が生まれた。
Oracle Team USAはアメリカズカップで1勝8敗から巻き返し、最後の決勝レースを制した
IoTのほぼすべての処理を受け持つコンポーネント
テニスラケットにセンサを付ける、ランニングの際に専用のセンサバンドを装着するなど、スポーツの世界にIoTのテクノロジが採用されつつある。それにより、トレーニングの仕方やコンディション管理など、さまざまな面での活用が始まっている。今後、競技で勝つためには、こういった技術が必須になりそうだ。経験に頼ったこれまでのトレーニング方法から、センサから得られるデータを活用する科学的なトレーニング方法が主要になってくる。
「東京五輪の際には、競技だけでなく五輪というイベント自体でIoTという最先端技術を使うことになるでしょう。それで『おもてなし五輪』を開催する。どういう形でIoTが実装されるかはまだ分かりませんが、ITの世界をがらりと変えることになります」(桐生氏)
日本オラクルの2014年の注力分野はクラウド、エンジニアドシステム、インダストリー、そしてこのIoTだ。多くのベンダーがIoTへの取り組みを表明する中、さまざまな業種、業態でOracleにはすでに実現している多数の事例があることが他のベンダーとの違いと言える。
「オラクルの強みは、IoTにかかわるほぼすべての機能をコンポーネントとして持っていることです。ここまで網羅している企業はほかにありません。なければ製品間をつなぐことになりますが、保守性が低くなり、海外展開も難しくなります。IoTには、グローバル展開を前提にしたサービスのインフラになることが期待されています。そのためには、必要なものがフルスタックで用意されていることは重要です」(桐生氏)
さまざまなセンサを常時接続するための技術、センサから収集されるデータをリアルタイムに処理する技術、集められたビッグデータを解析する技術、これらすべてを1つのベンダーで用意している点が、IoTにおけるオラクルの優位性であるとの主張だ。
データのリアルタイム処理の部分には「Event Processing」や「Coherence」があり、当然ながらビッグデータ処理部分にはExadataやBig Data Applianceがある。
デバイス側からデータ解析側までフルスタックを提供するのがオラクルの強みとする