Adobe Summit 2014

アドビのリアルタイムエンタープライズ--デジタルマーケを“再創造”

別井貴志 (編集部)

2014-03-26 13:46

 米Adobe Systemsは、デジタルマーケティングの大規模カンファレンス「Adobe Summit 2014」を米国ユタ州ソルトレイクシティで3月25日から開催した。

  • マーケティングソリューションの変遷は買収で

 Adobeがマーケティングソリューションを手がけるようになったのは、2009年10月にウェブサイト分析ソリューションの「SiteCatalyst」を有していたOmnitureを買収したことから始まった。Adobe Summitは、このOmnitureが開催していたイベントを引き継いだかたちで、来場者の中にはなかなかOmniture色が抜けない感覚を持つ人もいたようで、実際に一昨年ぐらいまでの発表内容はOmnitureが扱っていたソリューションの機能拡張や製品拡大がメインだった。それが、昨年2013年からはOmniture色が本格的に払拭され、いよいよAdobeになってきたと感想を漏らす関係者もいる。

  • Adobe Marketing Cloudの6ソリューション

  • Adobe Marketing Cloudコラボレーション

 2013年のSummitでは、「アートとサイエンスの融合」などをテーマにクリエイター向けツール(Adobe Creative Cloud)とウェブ解析ツールを連携させ、複雑に絡み合う大量のデータの意味を解析し、個人の好みに合わせた情報を提供するなど、データの意味を科学的にとらえようとする取り組みの重要性を説いた。さらに、「ラストミリセカンド(The Last Millisecond)」をキーワードに、デジタルマーケティングをいかに効率的に実現するべきかに注力すべきだという話もあった。

 ラストミリセカンドとは、ユーザー(顧客)の行動を促すためには、その1人1人に合わせたデジタルエクスペリエンス(体験)を提供することが大切で、企業はユーザーがクリックしたり、タップしたりするアクションと、それに基づいてユーザーが実際に体験する間に存在するわずかな時間のことを指す。このラストミリセカンドをを使って、どのように最適なユーザー体験を提供できるかを考えることが必要だというわけだ。

 また、自社ソリューションについては、社内ではプロジェクト「Tartan(タータン)」と呼ばれていた、Adobe Marketing Cloudの各ソリューション(現在は6つ)を連携させる「コラボレーション」の重要性や方針が示された。マーケター、制作の人、コーディングの人、広告を出稿している人、デザインを考えている人、人など、社内でいろんな役割を持っている人たちがばらばらに作業せずに、協業することが大事だというメッセージだ。ソリューションと人がさまざまにコラボレーションすることで、ユーザーのラストミリセカンドをうまく最適化でき、本格的なデジタルマーケティングを推し進め、顧客主義に基づいたエンゲージメントを向上させられるということだ。

  • AdobeのCEOであるShantanu Narayen氏は「Reinvention」をキーワードをテーマに

  • 「リアルタイムエンタープライズ」の重要性を説いた

 こうした流れの中で、今回の2014年のSummitでは「Reinvention」のキーワードが一大テーマとして示された。デジタルマーケティングの再創造、再構築、再定義、再革命といった意味合いで使われているようだ。このテーマを基に初日のキーノートでは、AdobeのCEOであるShantanu Narayen氏が「リアルタイムエンタープライズ」の重要性を説明し、SAPとの協業を発表した。

 Narayen氏は、「すべてのビジネスにおいて中心となるのは『顧客』で、顧客とのリレーションシップが大切。そのリレーションとは、顧客体験に加算されている顧客とのやりとりの積み重ねだ」と、顧客志向の大切さを改めて強調した。

 消費者は、名もない数字のような扱いは受けたくないし、会社の組織体質を反映しているような時代遅れのウェブで何かアクションすることは好ましくないと思っている。また、購入したモノがすぐ値引きされて売られるような、悪い顧客体験に対する許容度は非常に低い。消費者は購買などのさまざまな体験や何かアクションを起こす際の期待は非常に高いというわけだ。こうした消費者=顧客に焦点を合わせるのはビジネスにとって不可欠なのだが、コンバージョンを増加し、顧客の忠誠を向上させ、価値を上げるということを言うことは簡単でも、実際に行動するのは難しいとも付け加えた。

 そのうえで、「すべてのビジネスで顧客の期待に応えるためには、企業をリアルタイムのエンタープライズに変化させるべき。リアルタイムエンタープライズは、デジタルの速度で動いていく。顧客データとインサイトで原動力を得て、マルチチャネル、マルチスクリーン、個人化された、再定義された世界で動作する。ビジネスを走らせる中枢神経を再構築しなければならない」とリアルタイムエンタープライズの重要性を説いた。

 そこでAdobeとしては、Marketing Cloudだけではなく、企業内で使われているあらゆるシステム、ソリューションを統合するべきだと考えている。「機械学習、自動化というのは限りがある。サイロを壊して、顧客の声を社員全員が一緒になって聞くことが大切だ」(Narayen氏)とし、これはAdobeでも実践しているという。昔はPhotoshopを箱から出して使っていたが、いまはクラウドでサブスクリプションモデルをAdobe.comで販売している。ということは、顧客と(ソフトウェアがバージョンアップする)2年に一度対話するのではなく、毎日対話することが必要で、これは製品開発とマーケティング、財務、ITなど、すべてが部門や部署が垣根を取り払わなければならないということを意味している。そして、顧客の期待を最適化するためには、個別ではなく単元化した場所やサービスが必要だともした。

 さらに、Narayen氏は「顧客志向をリアルタイムに提供するために必要なことは何でしょう。私たちは周囲のさまざまな雑音の中で差別化させるのに必要なのは創造力、クリエイティビティだと信じている。クリエイティビティなしでは偉大なアイデアや常識破りの考え方がでないし、マーケティング戦略にインスピレーションを与えられない。そして、個人的な顧客とのつながりを持てないので、顧客に忠誠(ロイヤリティ)を求めることもできない」と続け、Marketing CloudとCreative Cloudを統合させる必要性も改めて述べた。

 つまり、2つのクラウドソリューションを統合することで、クリエイティブによるインスピレーションを得つつ、マーケターが主導するリアルタイムなエンタープライズを実践でき、自分たちを再定義することで、ビジネスを再定義するというわけだ。Narayen氏は、「ソーシャル、検索、ウェブというものが統合され、常識を破るアイデアと洞察で、ベストなクリエイティビティを考えるということ。一緒にリアルタイムエンタープライズを実現していこう」とまとめた。

 そして、今回の最初の目玉とも言えるSAPとの協業に話が移った。SAPは「SAP HANARプラットフォーム」および「hybris CommerceSuite」と共に、Adobe Creative Cloudを再販するグローバルリセラー契約を結んだ。両社では、マーケティングや営業、開発などでも協力していく方針だが、あくまでも現状では再販契約を結んだだけで、ソリューションの統合などについて今後どうなるかは不明だ。また、この契約はもちろん日本も含まれるが、具体的な話は同様に未定になっている。

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