ベトナムの「北」と「南」の境目は、どこなのだ?
北部ベトナムの代表をハノイ市、南部ベトナムの代表をホーチミン市として取り上げてみましたが、それでは、どのあたりで北部と南部の境目があるのでしょうか。
まず、ベトナム人もよく口にするベトナムの地域の分け方として、「北部」「中部」「南部」の3地域があります。それぞれの代表的な都市としては、
- 北部:首都であるハノイ市
- 中部:近年、日系企業の新たな投資先として注目を浴び始めているダナン市
- 南部:ベトナム最大の都市であるホーチミン市
ベトナムの北部、中部、南部。ハノイ市は赤の領域の中央やや右寄りの地点。ホーチミン市は、黄色の領域のほぼ中央の地点。
しかし、ダナン市のベトナム人は、「ダナン市は中部ベトナムではあるが、北部か南部かと言われれば南部だ」という意識です。仕事上、毎月ハノイ市、ダナン市、ホーチミン市で過ごしますが、ベトナム語を聞いていてもやはりダナン市で使われる言葉は南部ベトナム語になり、ホーチミン市で使われる言葉と共通します。また、ダナン市から北に100km程度のところには、フエ市という世界遺産にも指定されている古都がありますが、ここもどうやら南部ベトナムというイメージのようです。
となると、フエ市よりもさらに北のところに南北の境目がありそうです。なお、今でも日本人に強烈な印象を残しているベトナム戦争の事例を挙げると、南北の境界は「17度線」と言われる軍事境界線となり、フエ市の北約100km程度のところに位置します。
ベトナム戦争時の北緯17度線を境とした南北の分断。
また、「ケッペンの気候区分」の点からみると、
- ハノイ市:温帯(温帯夏雨気候)
- ダナン市:熱帯(熱帯モンスーン気候)
- ホーチミン市:熱帯(サバナ気候)
となり、ハノイ市は、ダナン市やホーチミン市と明らかに異なる気候区分に属し ています。
ケッペンの気候区分による温帯(赤)と熱帯(黄)の大まかな区分。国土の多くが熱帯に属するが、ハノイ市を含む北部ベトナムは温帯であるため、東京と同じ気候区分となる。
この温帯と熱帯の境目は、タインホア省とゲアン省の省境辺り(先の17度線よりもさらに北に80km程のところ)のようなので、気候区分でいえば、「北部ベトナム」と「南部ベトナムと中部ベトナムの大部分」で分類が異なります(一般的に、中部ベトナムの北端はタインホア省となり、ゲアン省はタインホア省の南に隣接する省となります)。「ゲアン省のベトナム人は忍耐強い」と前述しましたが、これは、気候区分の境界に位置する地域であるために不安定な自然環境に翻弄(ほんろう)されてきた結果なのかもしれません。
このような、南北に長いベトナムを「北部」と「南部」に分ける習慣は、気候やベトナム戦争の影響のほか、紀元前後からの民族的、文化的な歴史の違いにもあるようです。北部ベトナムは中国の強い影響を受けてきており、南部ベトナムはチャム語やサンスクリット語を基にするチャンパ王国の強い影響を受けています。南北の国民性の違いを、民族や言語といったさまざまな視点で眺めてみると、いろいろ興味深いことに気づくかもしれません。
- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事