走行距離で保険料決定、製造や小売りなど9分野をカバー--日立のIoT戦略(後編) - (page 3)

大川淳 怒賀新也 (編集部)

2014-04-01 07:30

野菜だけではダメ--ネット冷蔵庫の可能性

 今後新しいソリューションの芽は、意外なところにあるかもしれない。探し当てるにはどんな視点が必要なのか。香田氏は「データ利用の特徴として、取って、分析して、提供者に返すというだけでなく、その情報を別の人々に生かしてもらう。その人々が当初のデータソースに価値を提供できるというような仕組み――こんなことができるのは、どんなものなのか、今考えている。なかなか答えは出ず、試行錯誤ばかりしている。アイデアの段階から始まるわけで、難しいが面白い」と話す。

 思い付きを事業化するにはもう1つポイントがある。例えば、家庭用冷蔵庫内のセンサが庫内の食材品の在庫を検知し、不足していればネット経由で店舗に自動発注し、配達してもらう――ネット冷蔵庫は「技術的には可能」(香田氏)だが、価格と実需が問題になる。

 日立の情報・通信システム社 スマート情報システム統括本部 基盤ソリューション本部 基盤方式設計センタ長 水野善弘氏は、ビジネス化の難しさを次のように指摘する。

 「例えば、野菜だけではどうにもならない。庫内のすべてのものに適用できなければ、商品化は難しい。ニーズ全体に対応しなければ、ビジネスとして成立しない。これは、エンタープライズであっても同様だ。スマートビジネスは、ある種バーティカルなものとして存在しているのであって、IT、システムインテグレーションだけでなく、顧客の業務全体を満足させなければならないので、基本的には希望があればすべてに対応できないといけない。そこが難しい。どこまでいけば許容範囲として受容してもらえるかはグレーだ。往々にして、その手のサービスは“帯に短し襷(たすき)に長し”となる。ネット冷蔵庫で例えれば“野菜だけ可能でも困る”ことになる」

2014年の社会インフラ事業

 日立の社会インフラ事業は、2014年に何が目標になるのか。まず前述したIntelligent Operationsの、農業、地域コミュニティ、エネルギ、施設管理、医療、製造、鉱山、モビリティ、小売りの9つの分野をより広くしていくことだ。

 香田氏は「産業バーティカルそのものだ。今、社会を構成している要素はこの9つにほぼ含まれることになる。さらに、手つかずの領域にも適用範囲を広げる。すでに着手領域では対象物を広くしていく。“機械を監視する”だけでは足りない。機械は数えきれないほどあり、適用範囲を広げる必要がある。従来であれば、そこにITを提供するだけでよかったが、この分野では製造、保守でのノウハウが必要になってくる。そこまで整備して、One Hitachiでできる範囲を広くしていきたい。グループ企業を含めて大量の製造機械、設備、プラントを持っているので、そのすべてをこの領域に生かす」と語る。事業化とともに、それを支える基盤整備がさらに進む。

 技術面でも変化は始まっている。水野氏は「2014年に可能かどうかは未確定だが」とした上で「蓄積した情報を別目的でどう使うか。すべての点でデータを集められるようにする」と指摘する。データを貯めれば貯めるほど、どのデータを使うか、どのタイミングで使えば何に役立つかが分かる。つまり、低いコストで欲しい情報を得られるようにする取り組みだ。

 2014年度は「コストをさらに下げなければならない。M2Mでも最適配置でデータを吸い上げ、分析して再配置するといった技術が進化するだろう」と水野氏は見る。例えば、センサや監視カメラなどは、レンズの死角が生まれないように配置するのが理想だが、網羅すればコストが上がる。

 「監視でも危険回避、見守り、検品という目的もあり、それらを最適配置する必要がある。目的があいまいだと配置場所もあいまいになるが、目的が明確なら場所も明確化する」(水野氏)わけだ。

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