SAPジャパンは4月7日、東京と大阪の国内2カ所にデータセンターを開設、4月1日から稼働させていることを発表した。世界ではドイツ、オランダ、米国に次いで4カ国目、アジア太平洋地域では初めてとなる。
同データセンターを通じて、インメモリデータベース「SAP HANA」をベースにしたクラウド「SAP HANA Enterprise Cloud」を提供している。HANA Enterprise Cloudでは、ビジネスアプリケーション群「SAP Business Suite」やデータウェアハウス「SAP NetWeaver Business Warehouse」のほかに、HANAで強化されたアプリケーションを利用できる。
今回のデータセンターは、日本だけでなく、SAPのアジア太平洋地域のクラウドビジネス全体をカバーする拠点と位置付けている。パートナーエコシステムを拡大するためのデータセンターとしても活用。データセンター運用ノウハウを公開し、パートナー企業が独自のデータセンターからHANA Enterprise Cloudを提供できるように支援する考えだ。
SAPジャパン 代表取締役社長 安斎富太郎氏
SAPジャパン代表取締役社長の安斎富太郎氏は「大規模基幹系システムをインメモリで動かし、クラウドで提供できるのはSAPだけであり、データセンターの開設で、日本でも提供できる環境が整う」と今回の施策の意義を説明した。
「2012年に“Everything Cloud, Everything In-Memory”の方針を打ち出したが、わずか2年でその時代が具現化することになる。HANAのリアルタイム機能ですべての制約が取り払らわれ、短期に低コストでシンプルに新たなシステムを導入できる」(安斎氏)
安斎氏はまた、「パートナーのビジネスがオンプレミスからクラウドへとシフトする中でベストプラクティスを提供できるようになる。パートナーモデルは、過去3年で4割以上の成長率となっているが、それをさらに加速できる。一部に競合はあるが、すべてを当社だけで提供できないと考えており、地域や企業規模、レイヤで協業し、パートナーとの共存共栄を目指す」とパートナービジネスの方針を明らかにした。
今回のデータセンターはアジア太平洋地域で初めてとなる。安斎氏は「日本の市場を重視していることの証である。市場規模だけにとどまらず、日本のユーザー企業が持つ先進性や品質へのこだわり、成熟性などに対する期待でもある。日本のユーザー企業にもいち早くイノベーションを提供できる。日本を中心にして投資をしていく姿勢の表れであり、日本法人の社長としても意義がある」とその意味を強調した。
SAP AG プロダクト&イノベーション担当 Vishal Sikka氏
SAP AGの取締役会のメンバーであり、プロダクト&イノベーション担当のVishal Sikka氏は「クラウドの能力は多くの人にとってメリットをもたらすものであり、データセンターを設置して、これを日本の市場に提供することは必然である。HANAでインメモリを活用し、アプリケーションを簡素化でき、デプロイメントの方法やエンドユーザーの利用環境を変え、次元を変えられる」とHANAをベースにしたクラウドのメリットを強調した。
「アジア太平洋地域の事業をドライブさせたいと考えており、その意味でも日本の拠点は重要になる。中国市場は成長率は高いが、さまざまな問題があり、シンガポールや香港などといったアジアを見回してみても、日本がデジタルハブとしての鍵を握ると考えた」(Sikka氏)
SAP AG CIO兼SAP HANA Enterprise Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント Bjorn Goerke氏
データセンターの詳細については明らかにしていないが、SAP AGの最高情報責任者(CIO)でHANA Enterprise Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデントのBjorn Goerke氏は「当社が持つグローバル基準での水準をクリアしており、(品質管理システムの標準規格)ISO 9001の品質を実現したほか、99.7%の可用性を実現している。24時間365日のサポート体制を持っている」と性能以外の面でもメリットがあることを強調した。
「日本の特有の地震や津波などの対策も講じている。日本の2つの拠点のデータセンターを通じて、ひとつのエリアで災害復旧(DR)を可能としており、ネットワークの遅延も少なくなる。アジア太平洋地域でビジネスを展開するユーザー企業をこれまで以上に強力にサポートできる」(Goerke氏)
Goerke氏はまた「HANAプラットフォームという新たなテクノロジをクラウドで提供し、すべてのユーザー企業に使ってもらえる環境が整う。ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理システム)、サプライチェーン管理システム(SCM)などを活用でき、さまざまなデバイスに対応できる」とその利点を強調した。
会見では、HANA Enterprise Cloud導入事例として、主要ビジネスプロセスで性能を最大で97%改善し、3日間で移行した例なども紹介した。
安斎氏は「日本のユーザー企業のクラウドへの移行は思ったよりも早い。ミッションクリティカルでクラウドを活用するといった動きが出ており、このタイミングで日本にデータセンターを開設できたことは意味がある」と解説した。
「日本でのSAPのクラウド事業規模はまだ小さいが、特徴のひとつに少ないサーバ台数でデータセンターを構築できることなどがあり、ITに対する変革を促せる。これまでのオンプレミスへの投資を生かしながら、クラウドに移行できるプログラムも考えている」(安斎氏)