通信のゆくえを追う

通信事業者のビジネスに大きな影響を与える因子について - (page 3)

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2014-04-28 07:30

 米国においても同じようなことがおきている。

 AT&Tは、その地域事業をRBOC (Regional Bell Operating Companies 通称ベビーベルと呼ばれる)会社として分割。AT&Tは長距離・国際事業者となった。その後、日本と同様に、ベビーベルを中心とした多くの通信事業者が、合従連衡の憂き目に合い、AT&Tもベビーベルの一つであるSBC(Southwestern Bell Corp.)に買収された(社名は、AT&Tという知名度を利用するため残されている)。

 日本においても米国においても、通信事業者の乱立とその後の合従連衡は、すべて規制(とその緩和)のなせる業である。

 この間、確かに通信料金は下がったかもしれない。例えば1988年まで東京‐大阪間の平日昼間の通話料金は400円であったが、いまでは80円にまで下落した。

 しかし、それによって失ったものも多く、さらに考えなくてはいけないのが、失ったことすらわからなくなっているものがあるということだ。

 米国において情報通信の研究機関といえば、長らくベル研究所であった。しかしながら、上述の波のなかで、Lucent TechnologyとしてAT&Tから分離され、その後フランスのAlcatel配下に入った。この間、研究者の人員削減こそあれ、実のある研究結果が出てきたとは言いがたい。

 日本においては、NTTの研究所は持株会社の所属で、今のところ大きなリストラ圧力には面していないように見受けられる。しかしながら、NTTの組織再編論は、必ず研究開発力に影響を及ぼす。

 競争の促進により通信料金が下がることは、消費者の立場ではありがたいことである。また、電波帯域をオークション制で割り当てれば国庫が潤うことも事実であろう。一方で、これにより通信事業者の経営体力を必要以上に奪うようなことがあれば、技術開発力のような無形の重要な資産を生み出す力が削がれることは避けられない。

 今、2020年の情報通信産業のあるべき姿について総務省で議論が交わされている。

 情報通信に対する規制のさじ加減により、情報通信産業の行く末が決まるだけでなく、国力にも影響があると言っては言いすぎだろうか。

菊地 泰敏
ローランド・ベルガー パートナー
大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)

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