三国大洋のスクラップブック

スプリントとT-モバイルを合併させるにはLAクリッパーズを買収すべし(前編) - (page 2)

三国大洋

2014-05-05 08:00

大手ケーブル事業者同士の合併と「ネットワーク中立性」の“終焉”

 Comcastは米ケーブルテレビ(CATV)事業者の最大手で、TWCは同市場第2位。買収総額約452億ドル(ソフトバンクのSprint買収の時の2倍以上)という、この計画は、現在規制当局からの承認取得に向けた作業が進められているところで、実現した場合には加入世帯数が約3000万(米国全体の約3割)に達する見込み…。

 「あまりに数が多くなりすぎると承認も得にくくなる」と、Comcastが約390万世帯くらいの契約を他のCATV事業者に譲渡する話もすでに進んでいる。

 CATV事業者はほとんどが地域ごとに棲み分けていて、めぼしい競争相手(同じ市場での競合)といえば衛星テレビ事業者(DirecTVやDish Network)と電話会社(AT&TやVerizon)くらいしかない。

 ネット接続に限っていえば、衛星テレビには双方向通信は難しく、電話会社大手2社の方も事業の重点を携帯通信分野にすっかりシフトしてるので、事実上“地対空の棲み分け”といったものが成立している。つまり消費者にとっては、ほとんど選択の余地がない状況との印象がある。

 そのComcastがネット動画配信最大手のNeflix(米国内でのトラフィック量ですでにYouTubeを抜いたという話もある)に圧力をかけて、増加するトラフィックに対応するための費用の一部負担を求め、これをNetflix側が受け入れたという話が、Comcast/TWCの買収計画発表から半月もしないうちに明らかになった。

 この合意の煽りを一番食いそうなシリコンバレーのテクノロジ系企業やウェブサービス事業者と近いウェブメディアなどでは、これで「ネットワーク中立性の原則(“Open Internet Order”、FCCが2010年に発表)が死ぬ」などと大騒ぎになった。

 「ラストマイル部分でのトラフィックの差別ではないから……(ネットワーク中立性の違反にはあたらない)」などと厳密な定義を持ち出して異論を唱えるところも一部にあったが、いずれにしてもウェブサービス事業者の負担が増えれば、そのツケがユーザーにまわされるとか、大手企業が有利になってベンチャーが市場参入しにくくなるとかいった弊害が生じる可能性が高まる。

 そんなことで、たとえば普段からよく目にしてるThe Vergeあたりでは、この動きを激しく批判した「The Internet Is Fucked(but we can fix it)」といった強烈な見出しの論説記事も上がっていたほどだ。

 この「ネットワーク中立性」に関連する話では、その後4月に入って、FCCがComcastなどのISP事業者にネットトラフィックの“有料高速車線”を設けることを認める考えがあるという話が出て、再び大きな騒ぎになっている(FCC委員長のTom Wheelerが「真意はそうではない」などと直々に火消しに回っている最中)。

 この「ネットワーク中立性」に関するテクニカルな部分はややこしいので割愛するが,いずれにしても今、(携帯通信も含めて)通信分野の話題で“一番のヒール役(悪役)”といえば、このComcast…というような印象がある。

米通信業界の“政官民の緊密さ”

 昔読んだ記憶のある書物に『The Inmates Are Running the Asylum』という題名のものがあった(邦訳は『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』)。この題名のニュアンスを的確に伝える力がないので歯がゆいが、辞書を引くとinmateが「(監獄の)囚人;(精神病棟の)患者」で、asylumが「精神病院」と出ているので、要は「患者が病院を運営している」「管理されるものが(全体を)管理している」(=本末転倒の状態)ということだろう。

 この題名を思い出したのは、Ars Technicaの記事に出ていた1枚の画像を目にしてのこと。

 この画像(図)では、過去にCATV事業者の業界団体NCTA(National Cable Television Association)、そして携帯通信事業者の業界団体CTIA(Cellular Telecommunications & Internet Association)の責任者を務めた経歴の持ち主であるTom Wheelerが、現在ではFCC委員長の座におさまっていること、そのFCC委員長を2001年から2005年まで務めていたMichael Powellがその後NCTAの責任者になっていること、そして過去にFCCの委員を務め、その後はComcastに移ってロビイストとして働いていたMeredith Attwell Bakerという人物がこの5月からCTIAの新しい責任者に就任したことが示されている。

 政治的な立場でいうと、Michael Powell(Colin Powell元国務長官の子息)とMeredith Attwell Baker(現在の夫はJames Baker元国務長官の子息)はGeorge Bush元大統領親子に連なる共和党、一方、Tom WheelerはObamaの選挙戦(資金集め)に協力した論功行賞でFCC委員長に任命された民主党。また、Meredith Attwell BakerはFCC委員在任中に、ComcastのNBCUniversal買収を支持しながら、その後半年も経たないうちに同社に天下ったとして波紋を呼んでいた人物。

 そして、Comcastの実質ナンバーツーで、対政府担当の責任者(Bakerの上司にあたる立場)を務めるDavid Cohen(元ペンシルバニア州知事の側近)は、Obamaの(2度目の)大統領選挙の際に1000万ドル以上の資金を集めたとされる人物で、2013年にはCohenが自宅で開いたパーティにObamaが顔を見せ、「ここにはさんざん足を運んだことがある」云々など喋っていた…とNYTimes記事には書かれていたりする。

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