「Citrix Synergy 2014」で米国Citrix Systemsは、労働環境における“モビリティ(動性)”の重要性を強調した。今後、モバイルワークはどのような発展を遂げるのか。同社副社長兼モバイルソリューション担当のChris Fleck氏は、方向性の1つとしてウェアラブルの可能性を挙げる。その戦略を聞いた。
――初日の基調講演で最高経営責任者(CEO)のMark Templeton氏は「モビリティ(動性)とは、どこからでも仕事ができる環境」であると強調した。しかし、実際には“モビリティ=モバイルデバイスの利用”と考えている企業やエンドユーザーが多い。
われわれは、いつでも、どこからでも、どのようなデバイスからでも自分が持つ情報(データ)にアクセスし、仕事ができる環境を実現することが“モビリティ”だと考えている。モバイルデバイスは、その環境構築をサポートするツールの1つに過ぎない。
モビリティを実現すれば、従業員と企業の双方がメリットを享受できる。柔軟性に富んだワークスペースによって従業員は、オフィスに行ったり、指定されたデバイスを使ったりという物理的な制約から解放される。その結果、満足度が向上し、生産性も上がるだろう。企業も固定費の削減など効率化が実現できる。そうした環境を構築することが“モビリティの実現”と言えるだろう。

米国Citrix Systems副社長兼モバイルソリューション担当のChris Fleck氏。普段もGoogle Glassを着用して活動することが多いそうだ
――Citrixは私物端末の業務利用(BYOD)を推奨している。しかし日本企業はBYODの導入に消極的だ。
BYOD普及の足かせになっている大きな要因の1つは、セキュリティだ。リスクと利便性を天秤にかけ、リスクが勝っているならば、導入しないだろう。そうした企業が少なくないことも理解している。
しかし、BYOD導入の懸念がセキュリティであれば、その課題を解決すればよい。われわれの技術や製品でBYOD環境を構築すれば、「安全で生産性が向上する」というメッセージをしっかりとアナウンスしていきたい。
――ウェアラブルデバイスについて聞きたい。企業のモバイル戦略でウェアラブルデバイスや“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”に対する需要は増加すると考えるか。
われわれはウェアラブルデバイスを研究、開発しており、すでに複数のプロトタイプを持っている。今は顧客に対し、どのような製品や機能が必要なのかといったユースケースをヒヤリングし、それを“プロダクト”に落とし込んでいる段階だ。
例えば、ヘルスケアの領域では、患者にリストバンドを着けてもらい、それを通じて体調データを収集するケースが考えられる。すでにこうした試みは存在するが、同市場が拡大すると、懸念されるのはデータセキュリティだ。健康に関する情報は、究極の個人情報であり、セキュアにやり取りされる必要がある。われわれはそうしたニーズに応える製品を持っている。
――Citrixの製品は、どのような役割を担うのか。
今、私は「Google Glass」を着用している。これをリモート管理ツール「GoToAssist」と連携させれば、遠隔地にいる第三者に現在の状況をデータとして送信できる。これをビジネスユースに応用すれば、例えば、建築現場の進捗や倉庫内から在庫の情報を遠隔地にいる意志決定者にダイレクトに送信し、判断を仰ぐことができる。そうなれば、ビジネスのスピードは大きく向上するだろう。Google Glassなどで収集したデータを(企業向けオンラインストレージ)「ShareFile」で同期し、他のデバイスと共有するといった使い方も考えられる。
Google Glassの正式発売時期にもよるが、同市場にニーズかあると判断した場合には、すぐに製品を投入する準備は整っている。ウェアラブルデバイスでビジネスコンテンツを扱うようになり、新しいアプリが登場すれば、当然その管理と運用も重要になる。われわれにとっては、大きなチャンスと言えるだろう。
――ウェアラブルやIoTの分野で興味のあるベンダーはあるか。「買収したい企業はあるか」という意味なのだが(笑)。

イベント会場内のCitrixブース。Mobile Workspaceを実現するソリューションを中心に展示されていた
現在われわれが有している製品の機能を拡張すれば、ウェアラブルデバイス(の運用と管理)に対応できる。だから、ウェアラブル領域のポートフォリオを拡充するための買収が必要だとは考えていない。もちろん、ユニークな会社が現れたら話は別だが、現在は具体的な買収プランはない。
――ウェアラブル市場の将来について、5年後の展望を聞かせてほしい。
あくまでも個人的見解だが、時計(ウォッチ)型も含めると、モバイルデバイスの約20%は、何らかのウェアラブルデバイスになると考えている。もちろん、エンタープライズ市場の比率はこれよりも低くなるが、コンシューマー市場での普及が進めば、エンタープライズ市場にも拡大していくだろう。こうしたトレンドが進めば、BYODの普及はさらに促進すると考えている。