三国大洋のスクラップブック

アップルはビーツ買収で何を手に入れるのか(前編) - (page 3)

三国大洋

2014-05-14 08:00

 少し前のJustin Beaverにしても、今ちょうど盛り上がっているAriana Grandeにしても、米国の若い世代から支持される人気者の音楽にはブラックミュージック系の要素が多分に含まれているといった印象も受ける。そのことから推測できるのは、Beatsの提供する“ある種のライフスタイル”が今の米国の若者にとってかなり大きな影響力を持っているということ。


[Beats by Dre x Pharrell x Beats Pills "Happy" Commercial]

 実際に、Beatsの持つ影響力の大きさ、あるいはブランド力の高さを物語る調査結果もある。

 「Apple番の証券アナリスト」として有名なPiperJaffrayのGene Musterらがまとめたある調査(「Taking Stock With Teens」という題名のもの)によると、調査対象となった10代の若者の46%が「次ぎに買いたいヘッドフォン」のブランドとしてBeats by Dreを挙げていたという。

 これに続くのがAppleの25%で、Sony(4.2%)、JVC(1.8%)といった日本製ブランドも出てはいるがいずれも減少傾向(それに対してBeatsとAppleは少しずつ増えてきている)。また、「AppleからiWatchが350ドルで発売されたとしたらどうか」という質問に対し、「買うかもしれない」と答えた回答者は全体の17%に過ぎなかったという。

 この調査には、Appleに関する質問もあり、たとえば「iPhoneを所有している」と答えた回答者は全体の60%強、タブレット保有者のうち「iPadを使っている」と答えた回答者の割合が6割台半ば、また「これからタブレットを買う」予定の回答者の中で「iPadを選ぶ」とした回答者も6割台半ばなどとなっている。それらと比べてみると「350ドルのiWatch」に対する17%という数字はかなり低い感じを受ける。

 この調査は毎年2回春と秋に実施されてきており(ヘッドフォンについては2012年秋から2014年春まであわせて4回)、今回の調査では回答者数7500人、平均年齢16.4歳、回答者の家庭の年間世帯収入は恵まれた世帯が10万3000ドル,平均的な世帯が5万5000ドル(ほぼ全米中間値と同一)などとなっている。

 Beats by Dreのヘッドフォンは安いもので1台約100ドル(定価)、中には約400ドルもするものもあるので、回答した若者たち全員が実際に購入するかどうかは無論分からない。またこうした「ブランド」全体の価値をどうはじき出したらいいのかもよく分からないが、だとしても全体の約半数に近い支持率というのはたいしたものだと思う。


[Beats by Dr. Dre Presents: Lady Gaga Heartbeats]

 そういうブランドを創り出したJimmy IovineとDr. Dreが、Beatsの売却に伴ってAppleに幹部として参加するのではないか…。そんな観測もすでに出ている(お披露目の場は6月上旬のWWDCになるかも、といった話も)。2人が力を発揮する分野が「主にハードウェア製品なのか、それとも音楽ストリーミング分野なのか」といったことは、こうしてみるとそれほど重要なことではないのかもしれない。

 Appleには長い間、Steve Jobsという音楽や映画の世界(とその先の若者文化)と深くつながる有名人が存在していた。だから、そもそも外部のタレントなどを起用して製品のエンドースメントさせる必要もなかった。

 だが、製品やサービス自体では差別化が難しくなりつつある中で、このJobsの穴を埋められそうな存在感のある人材というのはそうそう見つかるもの(あるいは育てられるもの)ではない。だから、実績のあるIovineとDreの力(知恵や人間関係など)を借りることにした…。

 Beatsの買収は、表面的にはビックデータもセンサも絡んでこないように見えるせいで、テクノロジ分野からのアングルで眺めると、あまり面白い話には見えないかもしれない(GoogleがNestを買ったときのような刺激はない、という意味で)。

 ただ、“これからの消費者”である世界の若者にリーチできる切符を別ブランドとして抱えておくというのは、Appleにとって悪い選択肢ではない…。32億ドルという値段が本当だとしても決して高い買い物にはならないのではないか、という感じもする。

 後編では、「ウェアラブル端末としてのヘッドフォン/イヤフォン」といった角度から、この買収話の含みなどを考えてみたい。

********

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]