IT専門の調査やコンサルティングを手掛けるITRは5月14日、企業の経営者や最高情報責任者(CIO)らを対象にしたコンファレンス「IT Trend 2014」を開催。「デジタルイノベーションによるビジネス価値の創造」をテーマに12の講演やセッションが行われ、企業を取り巻くITのデジタル化について、多角的な視点からその見解と提言が示された。
基調講演に登壇した同社代表取締役でプリンシパル・アナリストの内山悟志氏は「企業変革を促進するデジタルイノベーションの潮流」をテーマに、日本企業におけるIT投資動向を紹介。2013年12月に発行した「国内IT投資動向調査報告書2014」をもとに、2014年の投資増減傾向が2008年のリーマンショック以降、最も高成長になるとの予測を示した。
ITR 代表取締役/プリンシパル・アナリスト 内山悟志氏
調査によると、自社のビジネスが好調(非常に好調/やや好調)と回答した企業は62%。そのうち「非常に好調」と回答した企業の25.5%が、IT投資を前年比20%以上も増加させたという。
調査では自社のビジネスが好調と認識している企業ほど戦略的投資比率が高いことも明らかになった。「非常に好調」と回答した企業では、戦略的投資比率が38.4%であったのに対し、「非常に不調」と回答した企業は戦略的投資比率が25%だった。
内山氏は、「不調と認識する企業では(保守などの)定常費用がIT予算を圧迫し、戦略的投資ができない悪循環が生まれている。グローバル化、ビジネスサイクルの短縮、ビジネスモデルの多様化など、ビジネスを取り巻く環境は急速に変化している。それに対応するためには、戦略的なIT投資は不可欠だ。今後、IT投資は企業競争力の“格差”となるだろう」と指摘した。
ピラミッド型組織からトライブ型ワークスタイルへ
同氏は、注目すべきデジタルイノベーションとして、「社会/産業のデジタル化(事業特化型IT)」「顧客との関係のデジタル化(マーケティングIT)」「組織運営/働き方のデジタル化(Future of Work IT)」を挙げる。中でも重要なのが、Future of Work IT(将来的なワークスタイルを支援するIT)であり、デジタル化で組織運営や労働者のワークスタイルが劇的に変化すると指摘している。そのキーワードとなるのが「組織のトライブ化」と「意思決定プロセスの変化」だ。
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組織のトライブ化とは、ピラミッド型の固定化した企業組織体系ではなく、共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段を持つことでつながるフラットな組織体系を指す。社内外の人材が自分の得意領域を持ち寄り、プロジェクト型で任務を遂行し、その成果を配分する方式だ。「ダイバーシティに対応し、多様なワークスタイルを実現させるためには、組織を柔軟にする必要がある」というのが内山氏の見解である。
「組織がトライブ化することで、意思決定プロセスも変化する」と同氏は説く。経営層のトップダウン方式ではなく、現場を知る従業員やスタッフの意見を反映し、効率的で柔軟な戦略方針や新規事業戦略が立てられるような業務遂行形態にシフトしていくという。
ただし、現状でFuture of Workに対する取り組みは、進んでいるとは言いがたい。内山氏はその主な原因として「ワークスタイルの変革に情報システム部門が関与していないこと」を挙げる。
「モバイル端末の浸透やクラウド化の潮流、“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”などの技術的なシーズ(種)があるにもかかわらず、そのイニシアチブを(IT部門が)取れていない。今後は、IT部門がイニシアチブを取り、企業のデジタル化に対応する必要がある」(同氏)
将来のIT部門は「デジタルイノベーションの創出や支援を担う」と語る内山氏。「(デジタルイノベーションの)構想化段階から積極的に関与することで、ITの適用領域や適切な技術選択の知見を提供していくことが重要だ」との見方を示し、講演を締めくくった。