ユーザーかデータか、プラットフォーム構築の勘所
なかなか根深い問題が話題に上ってきた。では、そうした問題も抱えつつも、プラットフォーム戦略を進める上で注意すべきことは何なのだろう。
池田氏は、プラットフォーム構築の2つの方向性を挙げる。
「ユーザーセントリックとデータセントリックです。あくまでユーザーの視点で、魅力的な顧客体験とはなにかという観点からプラットフォームを考える。そして時間の経過とともにどう変革していくのかを考えること。こうした思考がユーザーセントリックです。一方で、自社システムの視点で、必要なデータをどう吸い上げていくか、そのデータとプラットフォームから得られる情報をマーケティングにどう生かしていくかを考える。こうした思考がデータセントリックです。この2つはどちらも大切なものですが、どちらを先に考えるかといえば、当然ユーザーセントリックです」
確かに、データの生かし方をいくら優先して考えても、ユーザーが集まらないものであっては元も子もない。しかし、そんな当たり前のことが企業組織の中では常識とならないと斉藤氏は指摘する。
「いま日本企業の中でも、ビッグデータブームが起きていますね。しかし、解析した社内データをどう生かすのか明確でないケースをよく見かけます。視点が間違っているのです。組織の壁を超えて、顧客接点はどうあるべきか、魅力的な顧客体験はどのようなものか。ユーザー視点から、ユーザーの利便性を高めるためにいかにビッグデータを活用するかと考えることが大切です」
ここまで対話を重ねてくると、まさに今、世界のCEOが経営戦略策定において顧客の存在を強く意識している理由が見えてきたのではないだろうか。リアルとデジタルのチャネルを統合し、新しい顧客接点を作りたい。そしてデータを生かし、プラットフォームを作り、業績を上げていきたい。CEOのみならず、すべてのCxOはそれを目指している。
しかし顧客にとってプラスにならないものには何の魅力も価値もない。企業が顧客をリードしていく時代ではなく、経営層が顧客とともに価値創造を実行していく時代になったといえるだろう。世界のCxOはそのことを実感し、新しい取り組みを構想しているのだ。
ループス斉藤氏のメモ
ループス斉藤氏
これは最終勝者を決める競争だ。事業のバリューチェーンについて、すべて関係者の視点で理解して、顧客体験向上に向けた360度の展望を持つ企業が勝者となる――調査内で紹介されている最大手化学メーカーCMOの言葉です。同調査によると、高業績企業の3分の2は、すべての顧客接点において顧客の最新状況に応じて顧客体験を提供できるように、組織構成や戦略、投資配分の見直しを行っていることがわかりました。
経営の優先順位が、内側(社内の効率化)から外側(顧客接点の革新)にシフトしたのです。今、グローバル規模で顧客体験の競争が行われていると考えるべきでしょう。日本企業が本来持っていた「おもてなしの心」を「リアルとデジタルを統合したサービス」に生かせるか、私たちは大切な岐路にいるのです。