フィールドワークでの落とし穴
ここまでにご紹介してきたとおり、フィールドワークへのスマートデバイス市場(ラグド端末)は今後広がりを見せることがわかってきたが、ラグド端末導入には、どのような点に留意すべきなのであろうか。
導入を検討する際には、これまでご紹介してきたように、デバイスやアプリの選定やユーザー心理などさまざまな落とし穴があることには変わりがない。デバイスとしての耐久性やコスト(イニシャル、ランニング、再調達)、液晶などを含むパーツ類の交換容易性など、端末そのものに対する検討はもちろん、フィールドワーク固有の課題として、落とし穴となる点を導入企業と導入を支援するシステムインテグレーター(SI)などにインタビューすると、ユーザー視点、管理者視点で各々、以下の3点に集約することができる。
ユーザーの視点
あるべき姿を追求しすぎて企画倒れ
フィールドワークでのデバイス導入の最大のメリットは、いわゆる中継作業の排除にある。
ここでいう中継作業とは、これまで現場で紙の図面や指示書に記入した情報やチェックシートなどに記載した情報を、作業所などに戻り受発注や在庫管理、安全管理などの情報システムへ転記しなおすといった作業のことを示している。
しかし、実際にその現場で受発注などの作業を源流で管理しようとすると、一部は基幹系システムとの接続が必要となり、本格的にサプライチェーン管理システム(SCM)の仕組みそのものを見直すことになり、大掛かりなシステム改修を伴うことは少なくない。
この場合、相当なシステム投資が必要となるため、投資対効果(ROI)を算定するタイミングで導入を断念してしまう企業が多い。
とくに、投資額が大きくなればなるほど、日系企業の場合は意思決定が遅れる傾向がある。通常コンサルティングでは、このROIを見込んで、抜本的に業務の見直しをと提案するケースも多いが、これについては逆説的に、短期回収を狙う「Quick win」モデルを推奨することが多いのが実態だ。
ただし、ただ闇雲に導入するのでは、効果は一向に得られない。以前紹介したとおり、「スマートデバイス導入前のチェック項目」、とりわけグランドデザインの設計が重要であることは、ラグド端末のの場合でも例外ではない。
環境によってデバイスを選択しないと余計なコストを払うことになる
ラグド端末の選定の際に、ケースを取り付けるようなタイプを採用した場合に見られる事象として、手袋をつけたままでの利用やタッチペンなどでの入力の際、画面(表面)の劣化の激しさがある。例えば、手袋をつけて作業するような現場で、スワイプして画面遷移させるようなユーザーインターフェース(UI)を設計してしまうと、ディスプレイをコーティングしているシートやディスプレイそのものに傷をつけてしまうため、その分寿命は短くなる。
一部の企業ではケース取り付けタイプのライトラグドを採用したが、ケースやフィルム交換頻度などを考慮すると、より高価だが強靭な「フルラグド」の端末を採用したほうが結果的に安価に済んだのではないかという意見も根強い。
また、ラグド端末を利用する現場では、両手を使う状況も想定され、ウェアラブルデバイスの導入を検討している企業も少なくない。
つまり、利用環境や利用者のペルソナをきちんと定義した上で、デバイスの選定やUIの設計でなければ、使い勝手が悪いために使われずコストアップや、ユーザーが本来得られるべきメリットは享受することができないという点に留意しなければならない。
ユーザーのIT嫌い(心理的抵抗)
ユーザー視点で最後に気をつけるべきなのは、利用者そのもの心理である。以前に解説したとおり、こうした技術の導入を求めるのは現場からのニーズである一方で実際に利用するタイミングで、自らの仕事の仕方の変化やITという言葉そのものに対するアレルギー反応を強く示すのも、ユーザー自身だ。
多くの部分は、UIの設計でカバーできるものが多いが、それとは別に、利用の仕方や画面操作の仕方などを丁寧に説明していく時間が重要になる。そのため、一度に全面展開しようとするとケアしなければならない対象範囲が大きくなり、コミュニケーションを密にとることは難しくなる。利用者の対象を絞り込むなど、小さく始めて、ツールの良さを伝える“伝道師”を作ることが戦術的に重要なステップとなる。