2050年、ビッグデータはいかにして90億人の食生活を支えるのか(前編) - (page 4)

Lyndsey Gilpin (TechRepublic) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2014-05-29 07:30

懸念の高まり

 大きく開いた目、しかめっ面、腕組み、言葉の端々で息をのむ様子、その後の不機嫌さとため息、冷たいアルミ製の椅子にこわばった体を預ける姿。

 最近、こういった光景が米国各地で開催される農業関係の会議の場で見られるようになっている。6カ月前にはデータは議題にすら上がっていなかったと米国農業連合の複数のメンバーは語っている。しかし今日では、「Microsoft PowerPoint」のスライドやホールでの会話、質疑応答セッションでデータの話題が語られるようになっている。

 このコミュニティーが神経質になっているのは、回答が望まれているある疑問のせいだ。それは、データがいったん大規模ベンダーや種苗会社、機器ディーラーに渡った後、そのデータに何が起こるのかと、そのデータがどのように利用されるのかについてである。

 インディアナ州農業連合のプレジデントであるDon Villwock氏は「(会議に)出席すると必ずと言ってよいほど、誰かが寄ってきて、何が起こっているんだ、この春にはディーラーがこの契約書にサインしろと言ってきているのだが、サインするべきなんだろうか、といったようなことを尋ねる(中略)彼らは皆、知識に飢えているのだ」と述べた。

 多くの農業従事者にとって最悪の事態は、彼らのデータが近隣住民を介して地主の手に渡り、その低い生産性や過ちを暴露された結果、農場運営の仕事を奪われてしまうというものだ。

 米農務省によると2012年における農業関連業界の国内総生産(GDP)は7758億ドルと全体の4.8%を占めており、農業生産高はGDPの約1%であった。また2012年時点で、米国の職業のうちの約9%が農業関連であり、そのうちの260万人が農場で直接雇用されていた。さらに約200万の農場が米国に存在し、それらの平均面積は430エーカー(約174ヘクタール)であった。ただ、より規模の大きい農産業企業が土地を購入してきていることによる農業従事者数の減少ほどには農地は減っていないため、1農場あたりの面積は大きくなっている。

 Hackney氏は「ビッグデータ企業にとって農業従事者とは何なのだろうか?これは各生産者に割り当てられた識別番号でしかない」と述べたうえで、「農業従事者にとって、データが悪人の手に渡ることは死活問題なのだ」と語った。


The Climate Corporationの営業担当であり、Jones一家の友人でもあるGeorge Bercaw氏が同社サイトについて説明しているところ。
提供:Lynsey Gilpin/TechRepublic

 この業界では生産が最も重要な言葉であり、生産性の向上が米国の農業分野における経済的成長を推進する原動力となるのは間違いない。米国の農業生産高は1948年から2011年にかけて、毎年約1.5%の成長を続けた結果、倍以上に増加している。米農務省は2013年に、米国のトウモロコシ農業では1エーカーあたり平均160ブッシェルが収穫されていると述べているが、複数の農業従事者はその数字は誇張されていると主張している。一方、精密農業を推進すれば200ブッシェルにまで伸ばせるという報道も一部にある。

 しかしそれだけでは十分ではない。平均的な米国人はこの件について何も考えていないかもしれないが、農業従事者すべて(そしてこの件については農産業に携わるほとんどすべての人々)の頭の中には、世界中の人々を養うという問題、特に2050年には90億人にまで増加する人々の食料をどのように調達するのかという問題が渦巻いている。これが品種改良を魅力的な選択肢にしている理由であり、大規模農業企業が成功している理由なのだ。そしてこれはまた、データ追跡を次の段階にまで発展させることが革命的となる理由でもあるのだ。Monsantoの見積もりによると、作付けに関するアドバイスによって、世界中で年間200億ドル分にもおよぶ穀物生産量の増加が見込めるという。

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