農業の未来
Robertはしかめっ面でテーブルを見つめていた。彼は恐れているのだ。恐れと言っても自らのデータのプライバシーに関してではなく、農業の未来に関してだ。Robertは、世界がその重要性について、そして農業従事者が世界の食糧事情を好転させるうえでどれだけの重責を担っているのかについて理解しているとは信じていない。彼らは今までその重責を共有していなかったのである。
もう1つ、気候変動というプレッシャーもある。RobertとChrisはそのこと自体については認めようとしなかったものの、気候変動による収穫量の影響に大きな懸念を抱いていると述べた。大気中の二酸化炭素量が増え、気候が温暖化すると収穫に悪影響が及ぶ。EPAによると、気候変動により、農業従事者に対して既に年間110億ドルもの負担を強いている雑草が増えるようになる。さらに干ばつや洪水も増え、収穫量の大幅な減少に直面する。
Robertによると彼とその家族、そして他の多くの農業従事者は常に身構えざるを得なかったのだという。彼らは自らの仕事がしばしば不当に評価されたり、不正確に伝えられたり、はっきり言って軽視されているため、周囲に壁を築いているのだ。
Robert Jones氏は、農場のデータに関して受動的であるよりも積極的でありたいと述べた。大規模農業従事者として先手を打つことが大事なのだ。
提供:Lyndsey Gilpin/TechRepublic
同氏は「われわれは(自らを)守るために、壁を作って他の人々が入れないようにしてきた」と述べた。
しかしこのデータによって、農業業界の重要さを浮き彫りにする道が開かれるだろう。オープンなデータを通じて人々が自らの食料について考えるようになれば、人々は食料をもたらす農業について考えるようになり、その結果、食料を生産するために休み無く働いている人間に対して敬意を持つようになるはずだ。
Robertは昼食時に「農業はようやく世界からの尊敬を得た」と口にした。
こういった尊敬は一部には、The Climate Corporationがオフィスを構え、その他の新興企業が産声をあげているサンフランシスコにおける刺激的な動きによっても生み出されている。例えば、GranularはThe Climate Corporationから3ブロックほど離れたところで操業する小さな新興データ企業だ。GranularはThe Climate Corporationが2014年2月にSolumを買収した際に、そこから独立した。
Granularの最高経営責任者(CEO)であるSid Gorham氏は「新しい種類(の農業従事者)が増えつつあり、彼らは最高の科学とテクノロジといったものすべてを活用したいと考えているため、われわれは彼らに他の業界の人たちが使っているような近代的なビジネスソフトウェアを提供しようとしている」と述べた。
大規模農業企業はすべて、この分野に投資している。DuPont Pioneerはかなり以前から精密農業テクノロジを導入しているものの、最近になってサービス部門にも力を注いでいる。Case IHやAg Leader Technology、Deere & Companyはいずれも精密農業と予測分析のアーリーアダプターであり、今ではそれらのシステムはThe Climate Corporationのクラウドと統合されるようにもなっている。
Erickson氏は「これによって多大な利益がもたらされる。またこれは、農業界に革命をもたらす契機となり得る」と述べるとともに「農業従事者と企業の間におけるものごとの透明性が増し、農業分野すべてに勝利をもたらす(可能性がある)」と述べた。
今や小規模農場の農業従事者であっても、農業の次の時代に生き残りたいのであれば、こういったテクノロジの基本知識を必要としている。
Robertは「孫たちは何の問題もなくうまくやっていけるだろう」と述べた。
筆者はオフィスのコンピュータに目をやった。デスクトップの壁紙は、オーバーオールを着た坊主頭の幼児がトラクターに乗っている写真であった。彼の両手はステアリングホイールをしっかりと握りしめており、カメラに向かってにこやかに笑いかけていた。この写真を見る父親と祖父の目はきらきらと輝いていた。
しばらくしてから、筆者は再び画面に目をやった。この時、Jones家で最も若い農業従事者の写真は、The Climate Corporationのウィンドウで半分隠され、そのウィンドウ内ではデータの同期状況とともに通知が映し出されていた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。