空間データが変える未来

国境を超えた地球規模のインフラ--2020年への衛星測位を考える - (page 2)

高橋睦(野村総合研究所)

2014-06-18 07:30

測位環境向上に対する期待と課題

 現在の位置情報サービスは、GPSによる測位結果だけでは精度が不十分なため、携帯電話の基地局やWi-Fi基地局情報による位置補正や地図と重ねあわせるマップマッチングなどの技術により、位置表示の精度を担保している。では、今後さらに測位環境の整備が進むことにより何が変わるのだろうか。

 マルチGNSSや準天頂衛星システムの構築により期待される効果として、次の4つが挙げられる。

  1. エリアと利用可能時間のカバー率向上
  2. 位置と時刻の精度向上(サブメートル級・センチメートル級/ナノ秒単位)
  3. 運用継続性の担保(バックアップ/耐災性)
  4. 性能保証

 1のエリアと利用可能時間のカバー率の向上は、一定精度の衛星測位サービスが利用可能なエリアと利用可能時間が増えることを指す。日本は山間部や高層ビル街など開空率が低いエリアが多く、ビル陰や山陰により測位衛星を4機捕捉できないエリアや時間帯が多い。地球上空で運用される測位衛星の数が増えるほど、衛星を捕捉する確率が高まる。

 特に準天頂衛星は、常時天頂に存在するため、GPS衛星を4機捕捉できない場合でもそれを補完することが可能になる。現在、銀座や新宿などの高層ビル街でGPSによる衛星測位の利用可能時間が30~40%(市街地は90%)であるが、GPSと準天頂衛星システムと組み合わせることにより70%(市街地は99.8%)まで拡大するという。

 2の位置と時刻の精度向上については、現在GPSのみでは約10メートルの精度であるものが、準天頂衛星の補強信号を活用することで2メートル~数センチの精度で位置の測位ができるようになると言われている。

 また、GPSや準天頂衛星には原子時計が搭載されており、時刻同期の精度も高まると期待されている。GPSの時刻精度は、2008年公表の品質水準で95%の確率で40ナノ秒程度だ。高精度時刻を使う例としては、欧米で展開される超高速証券取引が挙げられる。

 3の運用継続性の担保については、もともと衛星は宇宙にあるため、耐災性が強い。東日本大震災では、地震により日本の国土が大きく移動したが、電子基準点が整備されていたことにより素早い対応を可能にした。加えて、マルチGNSSにより、ある国の衛星測位システムが稼働しなくなったとしても、他のシステムによりバックアップが可能になる。

 4の性能保証の有無は、衛星測位のサービスへの適用可否に関わる。「準天頂衛星を利用した新産業創出研究会」によると、米国のGPSはその品質を米国が保証するものではないため、列車の運行管理などでは参考情報として取り扱われているという。準天頂衛星では、測位結果を安全に利用できるか、判断する際に使用する情報を指す「インテグリティ情報」も送信するとしており、高精度かつ高信頼性を必要とするサービスで、衛星測位が使えるインフラになることが期待できる。

 ただし、安全性や信頼性、継続運用が担保できなければ、高度な安全管理や信頼性を必要とするサービスに使用することは難しい。先に述べた1~4はすべて、衛星測位システムが社会の信用に足るインフラとなり得るかにかかる課題であり、測位衛星のサービス適用範囲に影響する。

 準天頂衛星システムは、アジア・オセアニア地域への貢献と日本の国際プレゼンス向上を構築の意義の1つに挙げている。GNSSが国境を超えたインフラとなるためには、精度検証とともに、サービス開発や品質、安全性基準の国際合意や規格化、既存サービスへの適用のための国際標準対応などが求められる。


測位衛星数(2011年 「第9回衛星測位と地理空間情報フォーラム」JAXA提出資料)

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