研究開発が進められるGNSSサービス
欧州連合(EU)が2013年10月に発表した「GNSS MARKET REPORT」によると、世界のGNSS市場の年平均成長率は2016年まで9%、それ以降は5%であり、市場規模は2012年約1500億ユーロから2022年までに約2500億ユーロに達すると予測している。GNSS機器は2022年までに70億台近くに達し、ほぼ1人1台保有するようになるという。
欧州が構築中の全地球を測位対象とする、全地球航法衛星システム「Galileo」は、一部サービスを有償で提供する予定だ。EUでは、位置情報サービス(Location Based Service:LBS)、道路交通、航空、海洋運送、精密農業・環境保全、国民保護及び監視の6つの分野でGNSSを利用したアプリケーションの研究開発プロジェクトを推進している。
GNSS MARKET REPORTでは、2012年から2022年までの累積で、スマートフォンを使ったナビゲーションなどのLBSが今後も順調に成長を続け、マーケットの47.0%を占めるとしている。道路交通分野は46.2%を占めるが、カーナビとスマートフォンの競合により頭打ちと予想されている。そして残りの約7%を、測量、農業、航空、海洋、鉄道の各分野が占めている。
衛星測位に対する信頼性が担保できるようになれば、金融や保険、自動化、安全安心、安全保障などの分野においても、基幹的なシステムとして活用できるようになる。
例えば、道路分野では、カーナビに替わって車載用情報システムや車両緊急通報システムの「e-Call」、従量課金制の保険(Pay-per-use insurance)、特定の道路や地域、時間帯により利用者に課金する「ロードプライシング」などの新しいサービスが増加するとしている。
e-Callは、自動車が事故にあうと、自動で欧州の緊急電話番号「112」に位置情報付で通報するシステムである。欧州委員会は、2015年10月までに軽自動車も含むすべての乗用車の新モデルに搭載を義務付けるとした。
これにより、被害者の救助率を上げることや交通事故による渋滞時間の低減などが期待されており、ロシアでも同様のサービスが構築中である。そのほか、トラックや公共交通の走行時間や休憩頻度の規制にGNSSを活用することも検討中だ。
また、従量課金制の保険については、2013年度から損保ジャパンが自動車の走行データ(走行距離)に応じた保険料を適用する「ドラログ」の販売を開始しているように、すでにサービス化が始まっている。
マルチGNSSは、構築されれば誰もが自由に活用できる、国境を超えた地球規模のインフラとなる。特に携帯電話との組み合わせにより、さまざまな国で汎用的なサービスを生み出す可能性がある。先に述べたような制度面や運用面などのの課題はあるものの、環境ができ上がったときにチャンスをつかめるよう、動向を注視していく必要があるだろう。
- 高橋 睦(たかはし ちか)
- 野村総合研究所にて都市政策、地域情報化、都市の海外展開等に係る調査・コンサルティング業務を担当後、官民人事交流制度により国土交通省にて地理空間情報活用推進に係る業務に従事。 現在は野村総合研究所に復帰し、さまざまな社会課題におけるG空間やICT活用に関する調査、コンサルティングを主に活動している。