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アナリティクスは“デジタルホウキの悪夢”を見るか--ビッグデータの3つの論点 - (page 2)

齋藤公二 (インサイト)

2014-06-09 07:30

 全体の56%がこの「価値の獲得方法」を第1の課題に挙げた。2つめに多かった課題は「戦略の定義」だ。PoCやトライアルを行ったあと、どのデータウェアハウス(DHW)やBIを使えばいいか具体的な戦略が立てられずにいるのだという。3番目はスキルの獲得、4番目は複数のソースの統合と続く。

 「ベンダーはBIツールが進化すれば、データサイエンティストは必要なくなるというが、本当にそんなことができるだろうか。ほとんどのマネージャーは平均値と中央値の違いがわからない。使いやすいBIを得たからといって的確に意思決定できるとは言い難い。使い勝手がいい分、ちょっとしたミスが大きな失敗につながることもある」(Buytendijk氏)

 最大の問題は、こうした新しい技術をわれわれが本当に管理できるかだという。ミッキーマウスが扮した「魔法使いの弟子」は、ホウキに魔法をかけて自分の代わりに仕事をさせる。しかし、仕事を始めたホウキを止める術を持たなかった。魔法と見分けがつかなくなった科学技術を制御できなくなる恐れがあるということだ。

 「2008年のサププライムローン問題がそうだ。商品はハイパーアナリティカルだったが、制御できずに皆が代償を払うことになった。最近の例では、LGのテレビの事例がある。テレビ広告をパーソナライズ化するために視聴者の情報を収集していたが、批判を受けて修正した。これらは、ミッキーマウスの“デジタルホウキの悪夢”と言っていい」(Buytendijk氏)

 スマートメーターについても疑義を呈した。シグネチャパターンを分析して、娘がヘアドライヤを使いすぎていることがわかったとして、娘にドライヤを使うなと言うことができるだろうか。また、ヘルスチェックができるTシャツがあったとして、一体誰がそれを着るだろうか。

 ある保険会社はヘルスチェックできる機器を顧客に配布して健康状態がよいとポイントが貯まる仕組みを提供しているという。だが、ポイントを得るために自分の健康というプライバシーデータをなぜ与えなければならないのだろうか。保険会社は使い道を本当に考えているのだろうか。

 「ほとんどの企業はプライバシーを重視している。しかし、不気味さは少しずつ近付いてきている。予測分析は過去のモデルを見ているだけで、決して将来を見ているわけではない。技術が強力になりすぎ、意図しない結末を迎えないとは言えない」(同氏)

志賀嘉津士氏
ガートナー ジャパン リサーチバイスプレジデント 志賀嘉津士氏

現実主義者「リスクを踏まえて活用の道を探る」

 最後に登場したのは、ガートナー ジャパン リサーチバイスプレジデント 志賀嘉津士氏の扮する現実主義者。志賀氏は、手の中のハンカチを消す手品を披露しながら、次のように指摘した。

 「人は理解できないことが起こると魔法だと思う。手品は理解できないことを見せて魔法に見せるが本当はタネがある。タネを明かせばもう魔法ではない。Arthur C. Clarkeが言わんとしているのはそういうことだろう。夢を語ること、批判することは簡単。現実のビジネスで通用することが一番難しい」

 その上でエバンジェリストと懐疑主義者の意見をまとめながら、意思決定、パーソナル化、透明性について解説していった。

 意思決定については「アナリティクスの最大の目的であり、アクションを伴うことが大事だ」とした。アナリティクスの類型には大きく、何が起きたのかを知る「記述的(Descriptive)」、なぜ起こったかを知る「診断的(Diagnostic)」、何が起きるのかを知る「予測的(Predictive)」、何をすべきかを知る「処方的(Prescriptive)」があるが、これらを適材適所に組み合わせることで幅広い問題に対処できるようになるという。

アナリティクスの種類
アナリティクスの種類

 たとえば、記述的アナリティクスの事例としては、あるベンチャーが電力消費量に応じて色が赤、黄、緑に変わるランプを社内に設置し、その色を従業員が見て自分で判断して節電などのアクションにつなげている例を紹介した。「非常にシンプルながらアナリティクスからアクションにつなげた実効性の高い事例」だという。

 志賀氏は、そのほかのアナリティクスについても、新薬開発に使った過去のデータを異なる視点で分析することで異なる新薬につなげたケースや、運送大手のUPSが最適な経路の分析に利用して年間の物流コストを削減した事例などを紹介した。

 「アナリティクスを積極的に進めることはわれわれの未来をよくする。しかし、その中で想定外の危険があることを理解すべき。われわれの世界は白黒をつけられるものでない。だからグレーの部分をどう取り扱うかが大事になる」(志賀氏)

 ここで注意しなければならないのは、パーソナル化などのやりすぎは禁物であり、一線を超えてはいけないということ。また、顧客やサプライヤー、従業員、そして社会全体に役立つ情報を提供するような透明性を確保する必要があるということ。

 たとえば最近は、スーパーマーケットのアプリの中には、個人の嗜好を分析して、店内に入るだけでメニューをレコメンドするアプリがある。これも、やりすぎると、社会に役立つ透明性があるわけでもなく、むしろ「わが家の献立がストーキングされているような気味悪さ」が出てくることになる。

 志賀氏は「意思決定、パーソナル化、透明性は今後、アナリティクスから大きな影響を受ける領域だ。自社にとってどんな利益をもたらすのか、どんなリスクを被るのか、改めて考えていただきたい」と締めくくった。

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